公園を知る「国内事例」

No.03 先輩UD公園からの問いかけ(前編)

鳥取県米子市「弓ヶ浜公園」

 鴨や白鷺も姿を見せる加茂新川が公園のすぐ隣を流れ、目の前の日本海に注いでいます。園内に植えられた多様な草木は、季節ごとに美しい花を咲かせます。川沿いの遊歩道をウォーキングする人や、遠足にやってきた小学生、幼い子どもを連れたお父さん、お母さんなど、毎日いろいろな人たちがここを訪れます・・・。

 米子市によって整備されたこの弓ヶ浜公園には、ユニバーサルデザイン(UD)の考え方に基づいた様々な工夫が施されています。また1998年、公園の一角にオープンした「みんなの遊具広場」には、障害の有無に関わらずあらゆる子どもたちがともに遊べることを目指し、独自の工夫を凝らした遊具が設置されています。開園から9年が経った今でも、ここは私たちに新しい気付きを与えてくれると同時に、「こんな工夫をしてみたけど、実際の使い勝手はどう?」と問いかけてくるようです。

 今回はこの公園に施された様々なUDの工夫を、「前編:公園全体」と「後編:遊具広場」の二つのレポートにわたってご紹介します。まずは、前編をどうぞ!

写真:入口の案内板。下部に設けられた桟を指でなぞる女の子

 写真は、公園の各入り口にある案内板の一つです。公園利用の注意事項とともに、大きな地図が表示されています。園内の主要な経路は車いすでも快適に通行でき、それ以外の「階段ルート」と「勾配がやや急な坂のルート」は、この地図上で特別に色分けをして示されています。

 案内板の下には奥行き10cm程の桟(さん)のような台があり(黒板のチョーク置き場のようですね)、台の表面は手前から奥に向かってやや低く傾いていますが、ここには・・・

写真:点字の案内。「主な施設へは園路に敷かれた一本のレールで誘導します」などと書かれている

 点字による案内が書かれていました。台の傾斜は、案内板の前に立った視覚障害者が、自然な角度でここに手を置いて点字を読めるようにするための工夫です。

  ところでこの案内板は屋外で風雨にさらされるので、ほこりなどで汚れることがあります。中にはその台を触って点字を読むよりも、誰かに頼んで活字(墨字)の文章を読み上げてもらうという方法を選ぶ方もおられるでしょう。
 とはいえあらゆる人にとって、初めて訪れた場所の案内や注意事項を、自分で知る手段があるのとないのとでは大きな違いです。自分で読むか、人に聞くかを「選べる」ということ自体にも価値があると言えます。

 さて、案内板で紹介されている「園路に敷かれた1本のレール」とはどのようなものでしょう?

写真:園路の誘導用レール

 こちらがその誘導用のレールです。舗装された園路に金属製の凸ラインが延びています。弱視の方にとっては園路の赤茶色と、きらりと光るレールの銀色とのコントラストが進む方向を知る手掛かりになり得ますし、全盲の方はレールのわずかな突起を感じ取りながら園内を歩くことができます。

 一般的な点字ブロックは、多くの人や自転車が往来する歩道で確実に人を誘導するために、幅30cmのタイルが並んでいます。それは一方で、車いすやベビーカーの利用者に「ガタガタ」という振動を与えるもとにもなるのですが、このようにゆとりのある園路に敷かれたシンプルなレールだとその心配はほとんどなさそうです。

 誘導用のレールに導かれてたどり着いた先に、ちょうどコンクリートの電柱を高さ80cmくらいに短くしたようなものが立っていました。円柱の上にはその周辺の案内図が、見ても触ってもわかる触地図で表示されています。

 実際のところ、指先で触った線を頭の中で地図として認識するのはなかなか難しい作業です。この触地図は、必要度の高い情報が的確に伝わるよう簡略化して描かれています。地図の表面には「トイレ」「池」などの点字が表記してあるだけでなく、実線(トイレなどの建物)、点線(誘導用レール)、波型(池などの水のある場所)と凸模様を使い分けることで、地図をイメージしやすくする工夫がされていました。

写真:道標のポール

 こちらは道標のポールです。ポールの上部では「駐車場」「遊具広場」などの各看板が、それぞれの場所のある方向を指しているので、離れた所からでも分かりやすいですね。さらにポールの下部には、これらの内容を1枚にまとめて、各場所の方向を矢印で示した看板が取り付けられています。これがあることで、背の低い子どもや看板に近寄って字を読む必要がある弱視の方も、楽に同じ情報を得ることができます。

 さて、「見晴らしの丘」の看板にご注目下さい。「最大勾配11%」を示すマークがついています。ハートビル法による建築物のスロープの勾配基準が約8%ですから、それよりも少し急な坂です。「このルートに挑戦するかどうか」をそれぞれの人があらかじめ判断できるよう、目安となる情報が提供されているわけです。よし、挑戦してみましょう!

写真:丘の頂上に続く歩道

 写真は、「見晴らしの丘」に登る坂道の途中から下を見下ろしたところです。緑の丘にやわらかなカーブを描くこの小道は、歩いて登るにはとても気持ちのよいルートです。こうした坂道が、車いす利用者にとっても快適であるためには、途中に踊り場ともいえる水平部分があるかどうかがポイントとなります。あいにくこのルートにはありません。比較的緩やかな勾配であっても、何十メートルも続く坂を車いすで登り切るにはかなりの腕力が必要です。また止まって休むにも坂の途中ですから手を放してのんびり・・・というわけにはいきません。

 介助者が押す場合でも、「とにかく頂上までは!」と気合を入れて一気に登るのではなく、途中で一息ついて景色を眺める余裕が持てると、押す側、押してもらう側ともに体にも気持ちにも負担が少なく、楽しい道のりになるでしょう。

 じつは坂の途中に水平部分を設けることは、下りの場面でも効果を発揮します。緩やかな勾配でも下る一方だと車いすは加速がついていき、自力でのスピード調整は徐々に困難になります。途中に水平部分があれば、多少なりとも速度を緩めながら、より安全に下りることができるのです。

写真:歩道から脱輪した車いす

 また、この舗装された坂の端には脱輪を防ぐ縁石のような突起(立ち上がり部)がなく、下の土の地面との段差が5cm以上の箇所もあります。車いすでカーブを切り損ねた場合や、下りで加速がつきコントロールを失った場合は、脱輪による転倒の可能性があります。

 「では、車いすでは行かない方がよい?」
 いえいえ。 小高い丘の頂上からは園内を見渡せ、そこからローラー滑り台を楽しめるという特典が付いています。もしも階段ルートだけだったとしたら、下から見上げることしかできなかったところです。「見晴らしの丘」は、友だちや家族といった協力者と一緒に行ってみたい場所の一つです。

 園内の豊かな緑は、公園を管理する方々によって丁寧に手入れがされ、小さな実のなる木や、香りのする花が人々を楽しませてくれます。そうした中で公園の利用者がゆっくりとくつろげるように、園路のそばをはじめ園内のあちらこちらにベンチや休憩所が設けられています。

 こちらの屋根付き休憩所のポイントは、園路からの段差がなくスムーズにアクセスができる上、ベンチの周囲にゆとりのスペースがあること! ベビーカーに乗った子どもとお母さん、車いすの利用者とその友だちも、並んでゆったりと過ごせる場所です。もう一つのポイントはベンチの肘掛にあるU字形のくぼみ(切り欠き)です。きっと傘や杖などを立てかけるための工夫でしょう。

 このように、公園をめぐる主要な園路全体に施された大きな工夫や、必要な情報を提供するための要所ごとの工夫、またベンチの肘掛のくぼみのように小さな工夫も含めた一つひとつが、「様々な人にとっての快適性」という公園の魅力アップに貢献しています。
(さらにこの公園には各種の多目的トイレや、おむつ交換用・授乳用の部屋もあり、その充実ぶりはさすがです。トイレについてはあらためて、他の公園の事例も合わせた特集としてレポートする予定です。)

 さて次回は、弓ヶ浜公園レポートの後編(遊具広場)です。遊具に対するUDに正面から取り組んださきがけとも言える事例をご紹介します。