公園を知る「海外事例」

No.10 公園訪問inクイーンズランド・オーストラリア(後編)

パイオニア・パークより

 オーストラリアのクイーンズランド州で、2006年にオープンしたすべての子どものための遊び場(All Abilities Playground)、パイオニア パーク。
 ここには障害のある子もない子も、一緒に楽しむための工夫がいっぱいです!
 前回のレポートに引き続き、そのユニークな工夫の数々をご紹介していきましょう。

写真:砂場に隣接した高床式の木造プレイハウス。裏からアクセスできる床下にも遊びのスペースがある

 こちらは、遊び場の中央に作られたプレイハウスです。
 小さなコテージをイメージしたつくりで、ハウスの前には郵便受けがあり、隣の花壇には花の形をした遊具が並んでいます。そのいくつかは花の部分がクルクルと回る仕掛けになっていて、片手で軽く回せる花や、ちょっと力が必要な花、また回すとカタカタと音がする花もありました。

写真:コテージの正面にある階段。階段の上と下には点状ブロックに似た黄色の円い突起が並んでいる

 コテージに上がる正面の階段には両側に2段手すりが付いていて、階段下の地面と階段上の床には、注意喚起のための円い突起が並んでいます。また階段は一段ごとに見極めやすいよう、段の端(段鼻部分)に黄色いラインが敷かれていました。

写真:コテージ側から見下ろした階段。入口には、天井から床まで届く太めのホースのような物が3本吊られている。その向こうには階段を下りようとする男の子

 ところで階段を上がりきった場所に、天井から床まで3本の長いホースのようなものが吊り下げられているのにお気づきでしょうか。コテージの入り口にあるため、一瞬「暖簾(のれん)の代わり?」と思いましたが、ホースの中には鎖が通っていて、下の端はそれぞれ床に固定されています。子どもたちはこのクネクネした柵(?)の間を通り抜けて、出入りをしているのです。

 ちょっと不思議で遊び心のある仕掛けですが、じつはこれ、車いすなどの転落防止が目的です。もうひとつのスロープルートから上がってくる車いすや歩行器を使う子ども達が、この階段から不意に転げ落ちる心配をせず、コテージのデッキでのびのびと遊べるように、という工夫です。「柵」を「柵」に見せないところがユニークですね。

写真:デッキの上。壁にたくさんのパネルが貼られている
写真:耳に手を当てた男の子の姿が描かれたパネルには鳥やバス、笑い声などの絵が並び、額に手をかざした女の子が描かれたパネルには花や色、アルファベットなどが並ぶ

 コテージのデッキの壁には、いろいろなパネルが貼られています。
 青いパネルにはアルファベットと、それに対応する点字&手話の指文字が黄色で彫り込まれており、障害の有無を問わず、子どもたちが文字や点字、手話に興味を持つきっかけとなりそうです。

 また、「I HEAR(聞く)…」「I SEE(見る)…」と示された白いパネルには、この遊び場で聞こえる、あるいは見える物の名前と絵がたくさん示されています。絵と対応させることで物の名前を覚えたり、いろいろな物に興味を広げたり、また友だちとそれらを探しに出かけたりする手掛かりとして利用されているようでした。

 この公園づくりを主導したLisaさんは、遊び場の中にこのような「学び」につながる仕掛けを盛り込むことにも留意されたそうです。
 たとえば他に、ハーブガーデンで、「smell(匂いをかぐ)」や「don’t eat(食べてはだめ)」を示すパネルを見つけました。コントラストの効いた配色、短い単語と簡略化された絵は、様々な子どもにとって理解しやすいメッセージになっています。

 子どもたちには、体を動かしたり何かを操作したりするのと同じように、「わかる!」ということも楽しいものです。 さて、コテージの紹介に戻りましょう。

写真:デッキの隅にある電話コーナー。鉄製の支柱の先に直径60センチほどの円盤が床に対して垂直に設置されている。円盤には電話のダイヤルの模様が彫り込まれている

 こちらは伝声管の仕掛けをもつ電話コーナー。
 ダイヤル部分の円いパネルはクルクルと回り、数字のゼロの位置には穴が開いています。ここで話した声は長い管を伝わって、コテージの床下にいる友達のところへ・・・。

 ところでこの電話、いまどきダイヤル式なのには訳があります。
 伝声管は楽しい仕掛けですが、ほとんどの場合、金属のパイプでシンプルに作られているため、話したり聞いたりする穴の部分の高さを調節することができません。ですから背が届かない小さな子どもは、大人に抱え上げてもらって利用することになります。

 しかしこのダイヤル型伝声管は穴(ゼロ)の位置が動くので、それぞれの子どもが自分にちょうどよい高さで遊ぶことができるというわけです! 「楽しさ」と「UDの工夫」がとてもうまく融合していますよね。

写真:コテージのキッチンコーナー。オーブンや、車いすもアクセスしやすいカウンターなどがある。シンクのそばに立つ女の子がカップボードに手を伸ばしてままごとの最中
写真:ささやかなダイニングコーナー。壁際にテーブルとベンチがひとつ。車いすの子どもはベンチの向かい側の席につくことができる

 他にもコテージには、いろいろな仕掛けのあるキッチンやダイニングコーナーもあり、子どもたちがままごとやごっこ遊びをするにはうってつけです。

写真:コテージへと続く木製のスロープ。幅は広く、傾斜は緩やかでカーブしている

 こちらは、砂場を回りこむような形でコテージへ通じる、広いスロープルートです。

 スロープの柵が片側にしかありませんね。もう一方の砂場に面した側には、床から10cmほどの高さの立ち上がり部があるだけです。にもかかわらず「もし落ちたら・・・」という怖さを感じないのは、ここから砂場の中央に立てられた柱に向かってネットの遊具が張られているおかげでした。開放感があり、遊び場とうまく連続しているこのスロープエリアを、子どもたちが自由に出入りして遊んでいました。

 そしてスロープに加えられた素敵な工夫をもうひとつ。

写真:茶色のスロープの床に、黄色いボタンのような突起が並んでいる。突起の直径は5センチほど
写真:幼い男の子がボタンを踏もうと懸命に足を上げているところ

 床板に黄色い突起が5つ、ジグザグに配置されていますね。
 このボタンのような円い突起を踏むと、足元から「リン!」と音がしました。床下にベルが仕込まれているのです! 5つのベルはそれぞれに音の高さが異なります。  
 車いすで通っても、杖の先で突いても音が鳴らせるこのボタン。見ていると、足取りのおぼつかない小さな子どもはもちろん、このスロープを通る人の多くがわざわざここを踏んでいきます。

 友達を追って、コテージから駆け下りていく小学生の男の子が「リン!」
 キッチンで遊ぶ幼い娘に呼ばれて、「なーに?」と上がって来たお母さんが「リン!」
 いろいろな人が、つい鳴らしてみたくなるこの小さな仕掛けは、スロープを単なる「階段が使えない人のための代替ルート」ではなく、「誰もが通りたくなる魅力的なルート」にするのに一役買っていました。

 他にも様々な工夫がされたこのパイオニアパークは、優れた公園として複数の賞を受けています。また前回のレポートでもご紹介したとおり、たいへん多くの人に利用されているのです。
 地域の家族、親子クラブ、遠足で訪れる子どもたち、中には市街地から車で1時間半かけて通ってくる親子連れもいるそうです。予想以上の人気振りに公園は、一つだったトイレを二つに増やし、駐車場も広げ、この日は公園から最寄り駅へ向かう遊歩道を新たに整備中でした。

 また、ていねいな維持管理に加え、地元の人々がボランティアでハーブガーデンの手入れをするなど町に愛されているこの公園では、破壊や落書きなどの被害が皆無に近いそうです。(「たしか、キッチンコーナーのヤカンが傷付いちゃってたのを直したの。一度だけね」とLisaさん)

 「こんな公園をあなたの町にも作りませんか?」  
 2007年、クイーンズランド州は州内のすべての地方自治体に呼びかけました。   All Abilities Playground Project
 障害の有無を問わない、すべての子どものための公園づくりプロジェクトの始まりです!

 それは、州が500万豪ドル(約4億7千5百万円/2007年4月)の予算をつけて公園建設費用の一部を負担し、Lisaさんたち州の障害者部局(DSQ:Disability Services Queensland)がこうした公園づくりに重要なノウハウの提供などで協力してくれるというものです。

 パイオニア パークの成功が何よりの呼び水となり、この魅力的なプロジェクトに全州から30の自治体が立候補し、内16箇所が選ばれました。その中には、人口わずか9000人という小さな町も含まれているそうです。
 私たちがDSQの事務所を訪問した2008年8月は、各地域の障害者部局と自治体によるプロジェクトチームが、地元の多様な子どもたちを含む住民と公園建設の専門家たちとの協働で、それぞれの公園の具体的な設計にあたっているところでした。

写真:DSQから頂いた資料の一部。同プロジェクトにおける公園づくりの手法を解説した資料

 このプロジェクトについて詳しく伺うまでは、パイオニア パークの実績をもつDSQ本部は、障害のある子どもや親たちが参画する公園づくりの手法を伝授する以外に、「どんな公園にするか」といった具体的な計画の部分にも主導的に関わっておられるのでは、と想像していたのですが実際は違いました。

 Lisaさんは言います。
「地域によって求められる公園の姿は様々なんです。だからどの公園も、地元の人々のニーズにしっかりとフォーカスして計画する必要がある。そこで自治体はそれぞれでワークショップなどを行ない、多様な住民から出された意見やアイデアに基づいて独自にデザインをしているんです。

 今ちょうど、それらの設計案が送られて来てるんだけど、とてもバラエティに富んでいて、中には私たちが今まで思いもつかなかったようなアイデアが盛り込まれていることもあるわ。どうすればあらゆる子どもたちがより楽しめる公園ができるか、私たちも多くの人から学んでいるところなの。どうぞこれを見て!」

 Lisaさんは、各地の公園のデザイン画とともに、ワークショップで用いる絵カード(子どもたちが公園について自分の考えや意見を表しやすいようにするためのツール。言語療法士と協力して独自に開発されたそうです)、そして子どもたちが描いた理想の公園の絵などを次々と見せて下さいました。

「多様な親子や住民がこうして計画、設計、建設の場面に参画することで、公園はよりよいものになるし、人々の間には『自分たちの公園』という愛着や誇りが生まれる。こうしてできあがった公園は多くの人に利用され、多様な子どもたちに貢献できるだけでなく、地域の大人たちの輪を広げるきっかけにもなるんです」

「ここにくるまでは大変なこともあったけれど今、毎日がワクワクと楽しくて・・・」と話すLisaの笑顔は輝いていました。

 このレポートが掲載される頃には、16箇所の公園がそれぞれ建設段階に入っているはずです。
 そしてクイーンズランド州では来年、地域の子どもや大人たちのアイデアがたくさん盛り込まれた誰もが利用できる公園が、北から南まであちこちの町に、次々とオープンしていきます――

 今回、快く取材に応じ、公園を案内して下さった上、貴重なお話や資料を提供して下さったDisability Service QueenslandのLisaさんとJulieさんに、心から厚くお礼を申し上げます。