公園を知る「海外事例」

No.07 背もたれ付きのブランコ

アメリカ・バウンドレス プレイグラウンドより

 ブランコは、公園で最も人気が高い遊具の一つです。 地面から離れ、風を感じながら空中を揺れる感覚は、とても魅力的ですよね。

 「ブランコ」と聞いて多くの方が思い浮かべるのは、座板が2本の鎖で吊るされたタイプのものでしょう。従来、日本の公園にあるブランコはほとんどがこの種類でしたが、徐々に違ったタイプのものも導入されてきています。

 たとえば、固くて重い座板の代わりにゴムのベルトシートを使ったタイプ(左の写真)。軽量で柔らかいため、仮にシートが子どもにぶつかっても大きなけがをする心配はありません。
 また、丸い籠(カゴ)のようなシートに幼児を上からすっぽりと入れ、穴から足を出して座らせるタイプ(右の写真)。少しばかり座位が不安定でも安全に楽しむことができるので、小さな子どもやその保護者たちに好評です。

 これらのタイプのブランコはアメリカでは一般的で、多くの公園で見ることができます。しかしバウンドレス プレイグラウンドではさらに、体に障害のある子どもも乗れるよう、大きな背もたれのついたブランコも併せて設置されています。

写真:背もたれつきブランコ

 最初にご紹介するのは、高い背もたれと座面が滑らかなカーブで一体となった、座り心地の良い椅子のような形をしたシートです。このシートは、左右の肘掛の部分と、背もたれの部分が2箇所、計4本の鎖で吊られています。(ちなみに子どもが指を挟まないよう、鎖の穴は小さく、さらに鎖全体が特殊なコーティングでカバーされています。)

 この椅子型シートなら、細い板のブランコと違って深く腰掛けられる上、後ろにひっくり返る心配がないので、腕の力だけで上体を支えることが難しい小さな子どもや障害をもつ子どもが、安心して楽しめるというわけです。

 従来の公園のイメージからすると、何だか見慣れないこのブランコは、ずいぶんと特殊なものに思えます。しかし実際のところ、これは障害のない子どもたちにも人気でよく利用されていました。彼らにとっては将来、この椅子型シートもある公園が「普通の公園」のイメージになっていくのかもしれません。

 ところで体に障害のある子どもたちの中には、うれしさや興奮などで思わず力が入り、体幹のバランスを崩しやすい子どももいます。そのような場合、「椅子に座ることはできても、ブランコが揺れると姿勢が保てず、落ちてしまうのでは?」という心配がでてきます。
 じつは、このブランコには3箇所に小さな金具がついていて、別売りの簡単なシートベルトを取り付けることもできるので、ベルト付きブランコとして提供している公園もありました。

写真:背もたれと鎖のシートベルトつきブランコ

 こちらはまた別の公園の、背もたれつきブランコです。
 先ほどのブランコと同じような椅子型のシートが4本の鎖で吊られています。ただ、座面の前の中央(座るとちょうど膝と膝の間)に別の鎖がついていますね。鎖の先はふた手に分かれ、広げるとアルファベットのTの形になります。(鎖には厚手のビニールカバーが巻かれています。)

 ふた手に分かれた左右の端についている金具を、シートの肘掛から上に伸びている2本の鎖にそれぞれカチャリと接続させると、簡易ガードの出来上がり。
 見た目の美しさや使用感はさておき(?)、ブランコが揺れても、多少姿勢が崩れても、子どもの体が前にずれてシートから転落する危険はなくなります。

 では、椅子に座る姿勢をとること自体が難しい子どもの場合はどうでしょう?

写真:背もたれとフットレスト、5点シートベルトつきブランコ

 3番目にご紹介するのは、高くて幅のある背もたれと、座面、そして膝から下の足を支えるフットレストの3つの面が一体化したシートです。これは前述の2つと比べると、やや後ろにリクライニングした角度で吊られています。
 さらにこのブランコには、子どもの両肩から腰まわりを支えながら、ずり落ちも防止する5点シートベルトが付いています。たとえ自分の力で頭や体を支えることができなくても、シートに全身を任せ、安全にブランコを楽しむことができます。

 そしてこれらのブランコの周りには、ゆったりとしたスペースが取られています。これにより、障害のある子どもは車いすのままブランコに接近や横付けをして、もっとも小さな労力でシートに乗り移ることができます。また空いた車いす、あるいはベビーカーを、ブランコのじゃまにならず、しかも遠すぎない位置に置いておくことも可能です。
 一見「何もないただのスペース」も、じつは大切な工夫のポイントなんですね。

 さて、バウンドレス プレイグラウンドでは、障害がある子もない子も「一緒に」遊べるようにすることが重視されています。
 次のブランコエリアの写真をご覧下さい。

写真:4つのブランコが並んだブランコエリア

 中央の支柱を挟んで2連ずつ、全部で4つのブランコが並んでいますね。
 一番奥に見えるのが、このレポートで最初に紹介したブランコ(椅子型でシートベルトなし)、間の2つが一般的なゴム製ベルトシートのブランコ、そして一番手前にあるのが3番目に紹介したブランコ(フットレスト&5点シートベルト付き)です。
 同じ場所に、異なる種類のブランコが取り混ぜて配置されているのです。

 このため「障害のある子どもさんは、あちらの専用エリアでどうぞ」と分けられることなく、誰もが兄弟姉妹や友達と並んでブランコに乗ることができます。
 誰かと一緒に笑いながら、会話しながら、ときに競い合いながら乗るブランコは、一人で乗るときよりも多くの楽しみを与えてくれますよね。

 実際にここで、こんな場面を見ました。

 ベルトシートのブランコに一人で乗っていた女の子が、「お母さんも一緒に乗ろう!」と誘いました。お母さんは少し離れた所で、ベビーカーの赤ちゃんをあやしながら彼女を見守っていたのです。
 女の子に誘われたお母さんは赤ちゃんを抱き上げると、背もたれとフットレストのついた隣のブランコに乗りました。お腹に赤ちゃんを乗せたお母さん、その姿はまるでのんびりと波を楽しむラッコの親子のようです。(一応「子ども用」であるこのブランコには52キロという重量制限があるため、この乗り方はあまりお勧めできないのですが、)並んでブランコで揺れる3人の親子は、とても幸福そうな笑顔でした。

 ブランコのユニバーサルデザイン(UD)化には、課題があります。

 体を支える力が弱い子どもも乗れるように考えると、シートは大きく、重くなります。

 誰かがふざけて揺らしたシートに当たって、子どもがけがをするかも?
 シートに何人もで乗り込んだり、無茶なこぎ方をしたりする子どもがいるかも?
 あまり特殊なデザインになると、他の子どもたちが乗りにくくなるかも?
 安全のためにつけたシートベルトでも、不要な子どもにとってはじゃまになるかも?
 装着されなかったベルトが子どもに当たる、絡まるなどして別のけがを招くかも?

 こうした「かも?」を理由に初めから諦めてしまうのは簡単ですが、これらの公園では、シートのデザイン、地表面、ブランコの配置などを工夫し、課題の克服に向けた挑戦が続けられています。
 地面から離れ、風を感じながら空中を揺れるあの感覚を、 今より少しでも多くの子どもたちが、安全に、当たり前に、体験できる公園にするために。