No.05 「選べる」&「回れる」ルート

愛知県名古屋市「とだがわこどもランド」

花と緑があふれる広々とした戸田川緑地の一角にある「とだがわこどもランド」は、名古屋市の大型児童センターとして1996年にオープンしました。

 ここには、工作や調理などができる部屋も備えた施設(本館)「手づくりゾーン」と、屋外の「丘あそびゾーン」「水あそびゾーン」があり、連日、たくさんの親子が訪れます。本館はもちろんバリアフリー対応ですが、屋外のゾーンも『車いすを使っている子どもも遊べるように』と、遊具やルートにいろいろな工夫が凝らされています。
 さっそく「丘あそびゾーン」を中心にご紹介していきましょう!

写真:戸田川子どもランドの全景

 「丘あそびゾーン」の中央には小川が流れ、それをぐるりと取り囲む回廊のような形で大型遊具が設置されています。この回廊には3つの大きなスロープがあり、それぞれ特徴を持っています。写真の下の方に見えるのは長く緩やかなスロープ、それと並行しているのが半分の距離でやや急なスロープ、そしてこれらの反対側(写真の上の方)にあるのはちょっとした遊びの要素を備えたスロープです。いずれも片側に高さの異なる2段手すりが付けられています。

 この3つのスロープは「特別な利用者のために補助ルートとして付け足された」のではなく、初めからメインルートとして作られているので、車いすに乗った子どももみんなと同じように、しぜんに遊び場全体を回遊することができます。
 
 さらにこの回廊には、はしごやネット、ロープ、階段といろいろな手段でアクセスできるポイントが設けられています。そこでまず、車いすで上がった子どもがこれらのアクセスポイントから転落することを防ぐための工夫を見てみましょう。

写真:はしごの降り口とポール

 上の写真は、回廊からせり出したデッキの床に穴が空いていて、ここからはしごを伝って下に降りることができるポイントです。手前に金属製の赤いポールが一定の間隔で並び、車いすでの進入を防いでいます。

写真:はしごの降り口とポール

 上の写真では、急な斜面を駆け下りるルートや、ネットを登っていくルートの手前に、同じく赤いポールが立てられていますね。

写真:デッキ上の柵

 こちらは高さ60センチほどの柵が設置されています。柵の向こうには約1.7メートルの垂直な壁を登るウォールクライミングのような遊び場があります。確かに柵がないとかなり危険ですね。
 しかし壁を登り降りして遊ぶ子どもにとって、柵はじゃまにならないのでしょうか?
 
  3、4歳以上の子どもたちは意欲的に柵を乗り越えていきます。体の向きを変えてみたり、足をかける位置を変えてみたりと、自分なりに工夫しながら柵越えに挑戦する様子や、乗り越えた後の得意気な表情を見ると、子どもたちにとっては柵が遊具の一つになっているようでした。

  一方、まだ小さくて柵を乗り越えられない子どももいます。ただ、そうした子どもにはその先にある遊具(ここではウォールクライミングですね)で遊ぶことも難しいわけですから、柵は遊具の対象者を分けるハードルの役目も果たしていると言えます。

写真:デッキ端の大きなボード

 さらにユニークな例がありました! 
 上の写真は回廊のデッキから、下にある平均台などのバランス遊び場へ降りられるポイントですが、手前に大きなボードが立っています。ボードには人の形を模した穴が開いており、子どもはこの穴を潜ってデッキと外を行き来する仕掛けになっています。このため、仮に赤いポールがなくても車いすが誤ってボードの外側へ落ちる心配はないはずです。

写真:デッキ端のジャングルジム

 また上の写真では、デッキの端に設けられたジャングルジムが、穴の開いたボードと同じ役割をしていますね。ここは子どもたちに人気の通り道の一つになっています。  

 この2つの例は、デッキからの車いすの転落防止に「遊具」が利用できることを教えてくれています。遊んでいる最中に、「進入禁止」を直接イメージさせるポールや柵で行く手を何度も阻まれると、子どもの楽しい気持ちも少しずつ萎えてしまいかねません。このような「遊具」でさりげなく安全を確保するのは、遊び場の楽しい雰囲気を損ねない効果的な手段と言えます。

 今度は、車いすに乗った子どもも楽しめる場所を探してみましょう。

 上の2枚の写真をご覧下さい。いずれも回廊の一部ですが、どちらも2つのルートが並んで接しています。

 左の写真は、一方が普通のスロープ、隣は上にロープが渡されているスロープで、2つのスロープは距離も傾斜も同じです。ただ後者のルートでは、車いすの子どもが上のロープを両手で引っ張りながら坂を上ることができます。何気ない仕掛けですが、多少腕力のある子どもは挑戦したくなる、そして達成感を味わえる、なかなか楽しい遊びのポイントです。

 右の写真は、一方が普通の平らな通路、もう一方が吊橋になっています。この吊橋は、途中も数箇所がロープで吊られているので、床の一点が極端に沈み込むことがなく、車いすでも橋の揺れを楽しみながら無理なく通り抜けることができます。

 ところで、なぜ隣にわざわざもう一つのルートが設けてあるのでしょう?
 ここは入園も無料で大きな公園ですから、平日は遠足にやってきた子どもたち、週末は家族連れなどでにぎわうことが多く、回廊にいるとあちらからもこちらからも子どもが駆けてきます。そんな時、この2つ目のルートが役に立ちます。
 たとえ車いすの子どもがロープをつかんで懸命に坂を上っている最中でも、幼い姉妹が吊橋の真ん中に立ち止まって遊んでいても、先を急ぎたい子どもたちは隣のルートを迂回すればよいので、みんなが気兼ねなく遊ぶことができるというわけです。

写真:いくつかの仕掛けがあるスロープ

 こちらはちょっとした遊びの要素を備えたスロープです。このスロープは緩やかに蛇行しているため、出口まで見通すことができない分、ワクワク感も高まりますね。
 また通路の上にカラフルなゲートがあったり、左右の柱からゴム製の枝のような物が生えて(?)いたりするので、その間を通り抜けていくのもおもしろいものです。
 ただ、視覚に障害のある子どもや大人がゲートに気付かず頭をぶつけてしまうことがないよう、突起物の手前で床板の材質を変えたり、手すりに凹凸を付けたりして注意を促す工夫があるとさらによいかもしれません。

 さてこの回廊には、2箇所に櫓(やぐら)のような高いデッキがあります。(最初の写真で言うと、右奥と左手前です)どちらもはしごや階段などを使って登ることができますが、さすがにこの高いデッキまでスロープを付けることは現実的ではありません。
 ところが一方のデッキ(左手前側)には、車いすのまま上がることができるのです。
 大胆にもエレベーターを使って!

写真:プレイハウスの外観


写真:プレイハウスの内部

 じつはこの大型遊具には、「プレイハウス」という名前の建物(2階建て)が隣接しています。中にはエレベーターとらせん階段、そしてネットを登って行くルートが用意され、2階からは、回廊の上にあるデッキや、長いローラー滑り台、サイクルモノレール乗り場、また少し離れた所にある高さ20メートルの展望塔にアクセスができるのです。(展望塔にもエレベーターと階段があるので、まさに誰もが「てっぺん」まで行けます!)

 この「プレイハウス」を利用する多くの子どもたちは、自分の力や状況(ルートの混み具合や自分の急ぎ具合、また誰と遊んでいるかなど)に合わせ、敢えていろいろな手段を使って登り降りを楽しんでいます。
 また、エレベーターで乗り合わせた人に「何階ですかぁ?」「お先にどうぞ!」と声をかけながら、嬉しそうにボタンを操作する子どもにも出会いました。もちろんエレベーターは、ベビーカーを押すお父さんやお母さんたちにも重宝されています。

 エレベーターは設置費用の他に特別な維持管理が必要ですし、かなり特殊なケースではありますが、これも誰もが利用できるユニバーサルデザイン(UD)の遊び場を追究した一つの例と言えるでしょう。

写真:複合遊具の壁面

 多くの工夫が凝らされた「丘あそびゾーン」ですが、弱点を挙げるとすると、それは「見通し」です。回廊の両側やデッキの周囲には高さ1.3メートルほどの壁があり、壁面全体に小さな円い穴が空いてはいますが、中からも外からもあまり見通しがよいとは言えません。子どもの背の高さでは壁の上から周りを見ることができないため、遊び場の全体図を認識したり、自分の居場所を把握したりすることが難しいようです。

 また聴覚に障害がある子どもや大人にとって、「見通しのよさ」はさらに重要です。友だちとの遊びにおいても子どもの見守りにおいても、視覚による情報が十分に得られないとコミュニケーションや安全の確保に支障をきたします。もう少し見通しがよくなると、より多くの人が安心して楽しめる遊び場になると思われます。

写真:高さの異なる砂場
写真:くぼみのある砂場台

 最後にもう2箇所、優れた工夫をご紹介しましょう。
 一つは砂遊び場です。段々畑のように高さを変えてつくられた砂場の一番上の段には、車いすでゆったりと入ってテーブルのような高さで遊ぶことができる大きなくぼみが3箇所設けられています。このくぼみに入ると前だけでなく右も左も、三方を使っての砂遊びが可能です。
 また他の子どもたちは、このくぼみの下を友だちとの隠れ家にして遊んでいます。このでこぼことした形はいかにも魅力的で、子どもがつい入ってみたくなるのもうなずけます。

写真:小川を渡るポイント

 もう一つは「水あそびゾーン」です。「丘あそびゾーン」の中央を流れた小川は「水あそびゾーン」の池へとつながっています。写真をご覧下さい。途中のせせらぎを渡るために少なくとも3つのルートが用意されているのがおわかりでしょうか。

  一つは2枚の板がかけられた木の橋(車いすで渡ることも可能です)、もう一つは四角い石を並べた階段のようなルート、そしてその向こうは車いすやベビーカーのまませせらぎに入って横断することができる浅瀬ルートです。車いすで小川に入るなんて、ちょっと楽しい体験です! またこの浅瀬ならよちよち歩きの子どもが裸足で渡っても安心ですね。

 このように、今回訪れた遊び場には、ポイント毎に選択できる多様なルートが用意されていました。 そして全体的に行き止まりがほとんどなく、子どもも大人も思い思いの手段やルートで、広い遊び場をしぜんに回遊しています。

 さりげなく、周到に計画された「選べる」&「回れる」ルート。

 これはあらゆる人にとっての「快適さ」につながるポイントの一つではないでしょうか。 遊び場に限らず、建物でも、街でも・・・。

 今回は、日々たくさんの子どもの歓声が響く「とだがわこどもランド」をご紹介しました。