障害を持つアメリカ人法(ADA)の後押しや、公園遊具メーカーによるUD遊具の開発競争、NPOや市民グループの熱心な活動などを背景にインクルーシブな公園を次々と生みだしてきたアメリカ。今では遊具カタログやウェブサイトにいろいろなUD遊具や関連情報が掲載され、公園のつくり手たちの間にも多くのノウハウが蓄積されてきています。
となればあちこちで似たようなUD公園が増えていくのも必定。かつては必要だった特別な知識を持つ専門家や潤沢な資金を用意できない規模の小さな自治体でも、比較的手軽に遊び場のUD化を図れるようになってきたのです。それは全米各地の障害のある子どもたちに遊びの機会が保障されつつあることに他ならず、たとえ「ありきたりのUD公園」であっても日本の私たちから見ればうらやましい話――。
とはいえ、どんな公園でも独自の工夫を凝らした遊び場づくりは可能です。 今回は、地域に根差した創造的なUDの遊び場を実現したある町の事例を2回に分けてご紹介します。
ワシントン州シアトルから南に車で1時間ほどの場所にあるオーバーン市。 駅や高速道路のインターチェンジからも近いレス・ゴヴ公園の一画に、障害の有無を問わずすべての子どもが楽しめるインクルーシブな遊び場がつくられたのは2010年のことです。どうもプロバイダーに事業を一任したり、選んだUD遊具をそつなく並べたりしただけのケースとは一味違うよう。
そこである夏休みのお昼時、この公園を訪ねてみました。緑豊かな敷地を抜けていくと…ありました! ここがディスカバリー・プレイグラウンドです。
UD公園でよく見かけるスロープ付きの複合遊具はなく、とてもゆったりとしたレイアウトですね。
地面は、園路がコンクリート、遊具エリアはゴムチップ舗装、小さな丘は人工芝、その他もウッドチップを固めたマットや自然の土、芝など、場所の特性によって素材がうまく使い分けられています。
それらの境界線には基本的に段差がなく、車いすや歩行器、ベビーカーのユーザーもスムーズな移動が可能。全体的に茶色や青、緑といった自然に溶け込む落ち着いた色使いで、園路の白が引き立っていますね。
遊び場の一番奥には、斜面に2本の黄色い滑り台を備えた築山があります。
あの築山は州を代表する名峰マウント・レーニアをイメージしていて、そこから左右に下り遊び場の外周を囲うように延びている主要園路が、それぞれホワイト・リバーとグリーン・リバーなのだとか。いずれもオーバーン市を挟むように流れる実在の川です。(遊び場の全体像をGoogle Mapの航空写真でどうぞ)
ではさっそく、右側のホワイト・リバーを山に向かって遡るように進んでみましょう。
まず園路の外側にはこんなエリアが。
こちらは「パルス・テニス」という電子遊具。
2~8人が青と黄緑の柱の列を挟んで二組に分かれ、それぞれの先端が交互に発する音と光を追ってタッチしていく対戦ゲームです。遊んでいる人の動きがちょっとテニスに似るのでこう名付けられました。視覚または聴覚に障害のある人も一緒にプレーできるよう「音」と「光」なんですね。単純ですが意外と熱中する子どもや若者もおり、最近ではこうした電子遊具も人々の肥満防止や運動不足解消に一役買っているようです。
その隣は、主に子どもを見守る大人向けの健康器具。 とっても地味で殺風景なデザインなのは、小さな子どもが興味を持って近づき想定外のけがをするリスクを減らすためでもあるでしょう。少子高齢化が進む日本の公園でもこうした健康器具が広がっていますが、同様の理由で子どもの遊具とは混在させないなどの慎重な配慮が求められています。
さてこの園路を挟んだ向かい側にあるのは、二つ並んだ背もたれ付きブランコと普通のブランコ。じつはこれ、障害のある子どもとない子どもが並んで乗れるだけでなく、一方の人がブランコをこぐともう一方も揺れる仕掛けになっている「ハーモニー・ブランコ」です!
さっそく背もたれ付きのシートに座り、隣の人にブランコをこいでもらいました。 最初は小さな揺れだったものがだんだん大きく振れ始め、徐々に同調する二つのブランコの動きに思わず「お~~!!」。(ちなみに別々にこいでも特に不自然な動きにはなりません)
一般的な背もたれ付きブランコは子どもが自分でこげない場合、誰かに頼んで押してもらう必要があります。しかしこのブランコは押して「あげる」人と押して「もらう」人という関係を生むことなく、きょうだいや友達どうしが笑顔を交わしながら二人で楽しめるよう開発されたのです。
以前、重い障害を持つ幼い娘さんと一緒にハーモニー・ブランコを試したお母さんが、「まさに感動もの!」と喜びを伝えている記事を読んだことがあります。他にも障害のある親や高齢の祖父・祖母を乗せて子どもや孫がブランコをこぎ、一緒に楽しむケースだってあるでしょう。
家族で並んで揺れるブランコ……これまで公園遊びができなかった人々にとって特別な体験です。
続いてこちらは回転遊具エリア。 一人で乗って楽しむもの、みんなで楽しむもの、回転盤の傾きにより難易度が異なるものなどいろいろなタイプの遊具が配されています。
もちろん車いすのまま乗り込める回転遊具もあり、子どもたちに人気ですよ!
ん? この遊具、これまで当レポートで取り上げてきたドイツ製やイギリス製のUD遊具と違って、とってもシンプルな造りですね。
おそらくこれは一般の公園向けの回転遊具を活用したもの。回転盤と地面がフラットになるよう地下に埋め込み、本来5つある手すりの一つを外して車いすが乗り込めるスペースを確保したのでしょう。万が一、回転中に車いすが外に振り出される事態を防ぐ安全バーなどはありませんが、近年、こうして機能を絞りコストを抑えたバージョンの遊具も登場していて評判です。
ここで一つ気になったのは、回転盤と地面との境にある隙間。子どもは回転盤の床に座ったり寝転んだりして利用することもあるため、指が挟まるような隙間は避けるべきで、注意深い施工が望まれます。
続いて隣のエリアには二つ並んだ皿型ブランコ! どれほどたくさんの子どもたちに愛用されているか、縁を覆う青いゴム製カバーの擦り切れが物語っていますね。
さて、先ほどから巡っている園路ですが、車いすやバギーがゆとりを持ってすれ違える広い幅員以外にも、こんな工夫がありました。
路面に、川を泳ぐリアルな鮭の姿が刻まれています! 遊び場全体で40匹以上いるそうですよ。
視覚に障害のある子どもも触って分かるこのレリーフは一匹一匹が繊細に色づけされており、周囲の表面をサッと掻くことで水の流れを表現。単なるバリアフリー通路ではなく、地元でおなじみの魚と一緒に川を旅する気分で遊び場を巡れる粋な演出です。
さあ、マウント・レーニアが近づいてきました!
こちらが築山の滑り台。 斜面はゴム製のマットで足掛かりもあるので、ここをよじ登って頂上に行くこともできます。この足掛かりは、上から自転車やローラースケートなどで斜面を下る危険な遊びを抑止する効果もありそうですね。
このように築山や丘の斜面に沿って設けた滑り台は、複合遊具の上階デッキから滑る場合と違って、たとえ滑り台の上や途中から誤って外側へ落ちたとしても、一気に地面へ転落せずゴロゴロと転がれるので大きなけがにつながりにくいという利点があります。UD公園では、スロープがあることで幼児も高所にアクセスしやすくなるため、有効な選択肢の一つとされます。
ただし滑り台の迫力を増そうと築山を高く大きなものにすると、スロープルートがだらだらと長くなってしまい、障害のある子どもが体力を過度に消耗したりテンポよく遊びにくくなったりしがち。その点、複合遊具は短いスロープを繋ぎながら各デッキでいろいろな遊び要素を提供できるという利点があります。そこで築山と複合遊具を組み合わせるパターンも実践されており、敷地の特性や目指す遊び場の姿などによって、いろいろなデザインが可能なことに気づかされます。
ではもう一度園路に戻り、続きを進んでみましょう。
緩やかな上りに差し掛かったところで、左に階段が現れました。 ホワイト・リバー側の園路からはこの階段ルートでマウント・レーニアの頂上、すなわち滑り台のスタート地点に行けるようですね。
さらに先へ進むと向こうにスプラッシュ・パッドを発見。地面や支柱から水や霧が噴き出す仕掛けを備えた水遊び場です。
車いすや歩行器のままアクセスして楽しめるうえ、プールや水路と違って幼い子どもも溺れる心配がありません。またゴムチップ舗装のため、濡れた地面で滑って転ぶ危険が少ないのもいいですね。(障害のためバランスを取るのが難しく転倒しやすい子どもや、少しの衝撃で骨折しやすい子どもがいます)
海外ではこうしたスプラッシュ・パッドを隣接したUD公園は大変評判で、夏の間も多くの利用者が訪れます。この日も照りつける日差しの中、子どもたちが大はしゃぎでしたよ!
その奥にはあるのは立派な図書館や駐車場――。 なるほど、遊び場の築山は元々ある土地の高低差を利用して設けられたもので、こちら側からだとほぼフラットで滑り台にアクセスできるというわけですね。
さて今回のレポートはここまで。次回はここを左に回り込んでもう一方の主要園路、グリーン・リバーを辿ることにしましょう。後編をお楽しみに。