ユニバーサルデザインの遊び場づくりの先駆的なガイド本『子どものための遊び環境/PLAY FOR ALL Guidelines』の編著者で、子どもの遊び環境における国際的リーダーでもあるロビン・ムーア氏は、「残念なことにアメリカでは、平坦な地面と既成の遊具に頼り、子どもたちの創造性を刺激する自然の地形や植生に目を向けない遊び場が多すぎる」と述べています。
この現状に一石を投じたようなサンフランシスコの公園を視察しましたのでご紹介します。
その遊び場、ヘレン・ディラー・プレイグラウンド(Helen Diller Playground)は、サンフランシスコのミッション地区にある14エーカー(約56,000㎡)の広さのミッション・ドローレス・パーク(Mission Dolores Park)の南端にあります。そこは小高い丘に続く斜面になっており、遠くにサンフランシスコのダウンタウンの素晴らしい景色を望むことができます。
ミッション・ドローレス・パークでは広大な芝生で様々なイベントが開かれることもあるため、遊び場には近隣の住宅の子どもたちだけでなくイベントの参加者の利用も多いと予想されます。ちょうど視察した日もサンフランシスコ交響楽団の無料野外コンサートが行われ、コンサートの前に立ち寄った家族も多くいました。
グーグルマップのストリートビューで、この遊び場を360度見渡せる画像を載せてくれている方がいましたので、Dolores Park Playground からご覧ください。
この遊び場は、元々あった古い遊び場をリノベーションして2012年春にオープンしたできたてのもので、デザインはオレゴン州のランドスケープデザイン会社KLAが行っています。
全体が楕円形をしているその遊び場の最大の特徴は、地形をうまく利用して幼児から高学年まで幅広い年齢や能力の子どもたちの体験をデザインしているところです。ユニバーサルデザインの考え方を取り入れたこの遊び場は、傾斜地を利用し、岩や植物などの自然要素を織り込みながら独自の魅力とアクセシビリティを作り出していました。
その最大の魅力は、「登る/下りる」という体験です。この遊び場のデザイナーは、多彩な「登る/下りる」体験が子どもたちに自分なりのルートを考え出すことを促し、問題解決の力を育む機会を提供していると言っています。具体的に紹介していきましょう。
■スーパー滑り台
子どもたちにとって一番の遊具は、遊び場の南側の斜面30フィート(約9m)の高さから一番下まで下りる45フィート(約14m)の長さのスーパー滑り台です。
高く長い滑り台を作れたポイントは、傾斜した地形を利用しているから。滑り台の頂上のデッキは遊び場で一番高いところにあり見晴らしも最高です。ここにたどり着く方法は2種類。1つは滑り台の両脇にあるゴム張りの斜面で、急勾配のためチャレンジのレベルは高く、多くの子どもが這って登ります。途中にある岩は登る際の手掛かりや足掛かりになる他、長い斜面での休憩場所にもなります。もう1つは階段。斜面が怖い子どもたちはここを駆け上がって行きます。(ちなみに頂上のデッキは背後の芝生の斜面と同じ高さで繋がっていますが、その間には植栽があり、芝生側から直接アクセスはできません。)
■小山の滑り台
遊び場の中央にある10フィート(約3m)の小山の頂上からは、2番目の高さの滑り台があります。幅広なので友達と一緒に、さらに大人が幼児を抱えて一緒に滑ることもできて大人気です。
この頂上に登る方法も、子どもたちの多様な能力に応じて複数用意されています。チャレンジのレベルの高いものからウォールクライミング、ネットクライミング、途中につかまったりくぐったりできるスチール製の棒が並んだゴム張りの斜面、コンクリートの階段、外周通路から橋を渡り車いすやベビーカーでもアクセスできるルートの5種類です。これらの組合せで、さまざまな子どもたちに登る体験を提供しています。それぞれにチャレンジして登ってきた子どもたちは、小山の頂上から遊び場全体を見渡して、まさに「てっぺん」を制覇した気分になることでしょう。
■幼児エリアの滑り台
もう1つ、小さな滑り台がありました。幼児のエリアにある、高さが1mにも満たないかわいい滑り台です。
小さな子どもたちが、いつか自分の力で高い2つの滑り台に登る前に、ここで精一杯チャレンジをしています。滑り台が架けられた上段の縁は大人が座るのにちょうどいい高さ。この上段にはスロープが付きベビーカーでも容易にアクセスできます。 幼児エリアにはもう一つ、上段に登れる仕掛けがありました。大きな岩のステップです。高さの違う岩を並べただけのものですが、子どもたちに不規則な形をした岩を登る面白さを体験させてくれます。
■木柱登り
垂直に、斜めに、手足を使って登る木柱登りは、目標の高さまで子どもに応じたチャレンジのレベルを選ぶことができるものです。遊具であると同時にアートのオブジェのような景観を作っています。
■巨岩へのロッククライミング
最高レベルのチャレンジを体験させてくれるのが、本物のロッククライミングです。ちょうど視察の時に頂上まで登っていたのは女の子2人。見晴らしと気持ちの良い風を手に入れてアイスクリームを食べる様子は誇らしげでした。
「登る/下りる」以外にも魅力的な遊びが用意されています。
■サウンド・ガーデン
たたくと音の出るドラムやチャイムは、子どもたちに感覚的な刺激を提供しています。
■砂場
車いすでもアクセスできる持ち上がった砂のテーブルは、砂場の中でみんなが集まってくる場所です。
■ブランコ
幼児エリアのブランコは体がすっぽり入るバケットタイプのものが2つ、大きな子どもたちのエリアのブランコは、ゴムのベルトシートのブランコ5つと背もたれ付きのブランコが1つあります。
遊び場には他に小さな回転遊具やスプリング遊具、よじ登ったり潜り込んだりできるオブジェなどがあり、子どもたちはそれぞれの場所で思い思いに遊び、挑戦していました。
ヘレン・ディラー・プレイグラウンドは大型の複合遊具に頼らず傾斜地形を利用することで、さまざまな独自の「登る/下りる」体験を提供するとともにアクセシブルなルートを確保し、個性的なユニバーサルデザインの遊び場になっていました。もし、より重度の障害を持つ子どもも楽しめる遊び要素や、複数の子どもが一緒に遊ぶことを促す仕掛けがあったり、遊び場の縁を回り込んで小山の頂上へと続くアクセシブルな外周路の途中にも楽しめる要素があったりすれば、さらにインクルーシブな遊び場になるのではと感じます。
しかし、地形や植栽を生かして周囲の景観との調和を図りつつ、子どもたちがワクワクしながら多様な方法で楽しめる環境を目指したユニバーサルデザインの意欲的な解が、この遊び場にあることは確かです。
下のリンクから、サンフランシスコ公園局がこの遊び場を紹介しているビデオが見られます。ここの完成を待ちわびていた大勢の家族連れや生き生きと遊ぶ子どもたちの様子を、どうぞご覧ください。
サンフランシスコ公園局によるヘレン・ディラー・プレイグラウンドの紹介ビデオ
こちらはリノベーションの初めから完成、グランドオープンまでを記録した個人制作のビデオ。地形の特徴がよくわかります。
Dolores Park Helen Diller Playground 2012.mov