ニューヨークの中心部マンハッタンの南東に、大西洋を臨んで横たわる大きな島があります。ロングアイランドです。
2012年5月、このロングアイランドで初となるフルアクセシブルな遊び場が誕生しました! アイゼンハワー公園の一角にできたその遊び場は、LATCP Accessible Park and Playgroundといいます。
「LATCP」は「Let All The Children Play」というNPOの名前の略。2006年に設立された団体で、「障害のある子どもがない子どもと一緒に遊んだり運動したりできるアクセシブルな公園とインクルーシブなレクリエーションプログラムを提供し、すべての子どもの人生の質と尊厳の向上を図る」ことを目的としています。
NPOの創設メンバーの一人David Weingartenさんにはダウン症の息子さんがいます。「妻と私には、息子がまだ小さかった頃からずっと願っていたことがありました。息子がインクルーシブな環境で、障害のない子どもたちともっとたくさん遊べたらと。これはすべての子どもに必要な機会です。どの子もみんな遊ぶ権利を持っているのだから。遊びにアクセスできなければ、そこで培われる身体的、認知的成長も得られず、仲間の輪に加わる社会的なアクセスをも閉ざされてしまいます」
彼は、障害のある子どもと遊ぶことは健常児にとっても大切だと言います。子どもたちは受容することを学び、多様な人と一緒にいることが当たり前になるためです。そんな信念を持った人々が立ち上がり、地元ナッソー郡と協働し、5年がかりで夢の公園を実現させました。
オープンから3か月ほど経った夏のある日、実際に公園を訪ねてみました!
こちらが正面の入り口で、手前側に広い駐車場が面しています。広さ約8千平方メートルの遊び場にはフェンスが巡らされ、奥にはもう一つの出入り口。外に広がる木立ちには遊歩道が整備され、木陰の散策を楽しむお年寄りの姿も見られます。
遊び場に入ると中にも緑がいっぱい!
アメリカのUD公園は、巨大な複合遊具の周りに広くゴムチップ舗装を施すなど人工的要素の割合が高いケースが多いのですが、ここは芝地が多く、以前からこの場所にあった樹木もたくさん残されています。子どもを遊ばせに来た大人たちものんびりとリラックスして過ごせる環境ですね。 子どもたちはここでどんな遊びができるのでしょう? まずは児童用の遊具エリアから見学スタートです!
こちらに導入されているのはヨーロッパのメーカーによる遊具。滑り台付きの複合遊具にスロープはありませんが、難易度の高いバランス遊びや、複数の子どもが乗って揺らせる遊具などいろいろな遊び要素が備えられています。年齢が高い子どもも抵抗なく遊べるクールなデザインと色調ですね。
続いて、ん? なぜか地面に長い橋が架かっています。
これはただの橋ではなく、渡る人の重みや動きに合わせて床板がしなるように揺れる吊り橋でした! 実際に渡ってみると揺れは穏やかで、足元がなんだかフワフワする感じ。不思議な面白さです。
車いすも上りやすいよう橋の勾配は緩く、再生プラスチックを使った床板の細かな刻み模様には滑り止めの効果も。また、橋の上で大人が思い切り飛び跳ねても、床板の継ぎ目部分に子どもの指が挟まるような隙間はできず安全です。
橋を渡るだけのこのスポット、なかなか人気なんですよ!
先ほどから、キックスクーターで滑走する子ども、赤ちゃんの乗ったベビーカーをのんびりと押すお母さん、歓声を上げて逃げる子どもたちを大股で追いかけるお父さんなど、いろいろな人が渡っていきます。
そして、すれ違う人は自然と笑顔を交わしたくなる! お互いの動きで生じる揺れ体験を共有しているワクワク感がそうさせるようです。
遊び場をあちこち巡るうちにまたひょいと渡りたくなる、そんな魅力を持った楽しい橋でした。
さて、園路の交差点にやってきました。 中央に設置されているのは、以前ロンドンのUD公園で見かけた9枚のパネル! これはDance Chimesという遊具です。
各パネルを踏むと、地下から優しい金属音が鳴り響く仕掛け。ロンドンの遊び場ではパネルの外周が大きな隙間のあるグレーチングで覆われていましたが、ここでは目の細かいメッシュになっています。これにより、落ち葉や菓子袋などのゴミが地下に入り込んで故障を引き起こす事態を減らせるのかも!?
それにここは園路です。隙間を小さくすることで、通行者の持つ白杖の先端や靴のヒール(たいていの方がスニーカーやサンダル履きですが…)などが挟まる心配も無用になりました。
さらに、交差点という要所にチャイムが設置されているのもポイント!
園路をやってきた子どもはたいてい喜んでパネルを踏んでいくため、ここではしょっちゅう音が鳴っています。その音は、視覚に障害のある子どもや大人が、自分のいる位置や方向を推測する手掛かりになり得ます。さらに熟達者になると、このチャイムの真ん中に立てば、どの音がするパネルの方向の園路に進めば何があるかを記憶し判断できるかもしれませんね。
園路を辿っていくと、ちょっとした丘がありました。優雅にカーブした小道が、丘の頂上へと続いています。
歩行器など移動補助具のユーザーもアクセスしやすいこの小道。2つ置かれた赤いパイロンはその入り口を目立たせるためのようですが、きっと子どもたちが自由に動かして遊びに利用してもOKなのでしょう。
こちらの小道ルートを駆け登る子どももいれば、丘の斜面を直接登ろうとする幼い男の子もいます。ただし多くの子どもが通った斜面は、土がむき出しになっていて滑りやすい様子。お父さんが、「あっちから試したらどうだい?」と足が掛かりやすい草の生えた場所を示しますが、男の子はどうしてもここから登りたい! 何度もずり落ちながら自分で手や足の付き方を工夫し、トライし続けていました。
土と草木だけからなるこのスポットも子どもたちに人気です。シンプルに見えて変化に富む自然の遊び場は、彼らにいろいろな発見や挑戦の機会を提供することができます。 続いて、ブランコエリアをちょっぴりご紹介。 ブランコは、最初に見た児童用の遊び場(左の写真)と、これから向かう幼児用の遊び場(右の写真)のそれぞれにあります。
そのどちらにも、近年、欧米のUD公園で増えつつある、ジェットコースターの安全バーのようなハーネスを持つ背もたれ付きブランコが導入されていました。最新とはいえ、これにもメリットとデメリットが・・・。
進化を続けるこれらブランコのUDに関しては、あらためて別のレポートでご紹介したいと思います。
続いて幼児用の遊具エリア。
スロープ付きの複合遊具の他に、回転遊具やスプリング遊具があります。
左下の写真の大型シーソーは友達や介助者と一緒に乗りやすい上、背もたれのないシート(左側)、背もたれ付きのシート(右側)、立っても寝転んでも乗れる広いスペース(真ん中)と選択肢が豊富ですね。
また地面では、着色が可能なゴムチップ舗装の特性が生かされていました。地面を使った遊びを促す模様が描かれているほか、各遊具の場所を目立たせたり入り口へさりげなく誘導したりする色使いがされています。
日本の盲学校の先生や児童のお母さんたちが、こう言われていました。「視覚に障害のある子どもは、滑り台やブランコ遊び自体、他の子どもとほとんど変わらず楽しむことが可能です。最大の課題は、それらの遊具にどうやってたどりつくかなんです」。特に慣れない場所では、誰かに手を引いてもらうなどの支援がなければ身動きが取れなくなる子どももいます。コントラストの効いた誘導ラインは、弱視の子どもが自分の力で自由に遊ぶ助けとなりそうです。
さて、この遊具エリアには砂遊び・水遊びエリアが隣接しています。そこには子どもたちがかなり「ワイルド」に遊んだ跡がありました・・・。
写真のおよそ右半分が舗装地面、左半分が砂場です。その境に縁石はなく、この日は砂が一面に撒き散らされた状態。さらに砂と舗装面の色も似ていますね。車いすのままうっかり左の砂場に落ち込むと、抜け出せなくなったり転倒したりする可能性があります。
青い屋根のステーションは水遊びテーブルです。
柱に付いたボタンを押すと水が出て、それをバケツに汲んでは黄色い溜め桶部分に入れたり赤いじょうごから流したりして遊べる優れもの。そこに砂が加われば遊びの幅はさらに広がりますね。
すぐ奥の煉瓦で囲まれた扇形の一角には砂が半分ほど入っています。実はこの砂、開園当初は縁すれすれまで満杯の状態でした。車いすユーザーの子どもも、地面より一段高いこの場所を利用して砂に触れられるようにとの意図があったのかもしれません。
しかし、おそらくこの一角からバケツで運び出された砂はステーションの周りにどんどん撒かれ、水はどんどん流され、一面が泥んこ状態に・・・。これはこれで新しい遊び場の出現ではありますが、元々この下は一部が煉瓦敷き、残りはゴムチップ舗装の地面でした。地面の変化によって一部の子どもがここに近づきにくくなってしまった可能性があります。
車いすや歩行器など移動補助具のユーザーにとって砂や泥の地面は進みにくいものです。また発達障害等で触覚が敏感な子どもの中には、水には触りたいけれど砂の上は不快で歩けない子どもや、「砂遊びは好き。水遊びも好き。でも砂と水が一緒になって体にくっつく感覚はとても我慢できない」という子どももいます。
子どもはそれぞれのスタイルで遊び体験を積みながら世界を広げていきます。誰もが持てる力を存分に発揮できるよう、砂遊び、水遊び、泥んこ遊びがいずれもアクセシブルで選択可能にするにはどうレイアウトすればよいのか。他のUD公園でも試行錯誤が続いているところです。
最後に、この公園で最も人気の高い遊具をご紹介!
オーストラリアのUD公園にも導入されていた(「海外事例No.14」)、車いすのまま乗れる回転遊具です。
ここへ幅広い年齢層の子どもたちがひっきりなしにやってきてはみんなでグルグル! 笑い声や歓声が絶えません。英語を母国語としない子どもも吸い寄せられるように加わります。話す言葉はバラバラでも、「楽しいね!」という興奮や笑顔がすぐにみんなの間で伝播し増幅していく光景に、見守る大人たちも幸せそう。
ここで、オーストラリア取材の時には気づかなかった、この遊具のある機能を知りました。それは、回転盤の中心から左右に伸びているU字型のバー(持ち上げることができ、車いすユーザーが中に入った後、元の位置に下ろすことで飛び出しを防ぐ安全バーにもなる)に関連する機能です。先ほどから一人の小学生の男の子がこのバーを巧みに動かして回転盤にブレーキをかけスピードを調整しているのです!
この遊具には、「バーが上がっている時は回転を止める」という安全機能が付いていました。車いすが乗り込む際に遊具の床が固定されるので安心ですね。さらに回転が始まると、このバーはブレーキとして使えるようになっていました。
男の子は回転中に他の子どもが乗りたそうに近づいてくると、バーをキュッと持ち上げて速度を緩めます(動いている間は数センチしか上がらない仕組み)。その子が乗り込むと、自分が外側を走って遊具を回し、また飛び乗るのですが、常に年下の子どもの様子に目を配り、ちょっとでも怖そうにしたりよろけそうになったりしたら、すかさずバーを操作しスピードを落とすという絶妙のテクニック!
男の子の姿は、乗客全員の安全に気を配るベテラン運転士といった風情で、どこか誇らしげでした。
この公園のオープンは、多くの地域住民に待ち望まれていました。
ここを取材した地元メディア(My Long Island TV)のビデオには、楽しく遊ぶさまざまな子どもの様子とともに、障害のある子どものお母さんたちの喜びの声が収められています。
「ここなら娘たち(障害のある姉とない妹)を二人一緒に遊ばせられるんです。本当に嬉しいわ」
「ここに誰もが一緒に遊べる公園ができると聞いた時は大興奮だったの! 子どもには、自分と違う人の立場で考える力を養うことがとても大切。この公園はその機会をたくさん与えてくれるでしょ」
その成果はもう表れているようです。公園に関するこんな記事を見かけました。毎週のようにここにやってくる、11歳のダウン症を持つ男の子のお母さんのコメントです。
「息子はとても怖がりなところがあるんです。普通の公園で滑り台をなかなか滑れずにいると、他の子たちから文句を言われたり割り込まれたりしてました。でもここなら除け者にされることはありません。子どもたちはみなとても受容的なんですよ」
それにここは、お母さんたちが遊ぶ子どもを見守りながら、子育てに関する情報を交換する格好の場所になっているそうです。
公園づくりに尽力したナッソー郡の議員はビデオの中で、「このオール・インクルーシブな遊び場の核心にあるのは、家族、楽しさ、コミュニティ。これこそナッソー郡の公園が目指す姿です」「ぜひ多くの人にここに来て、ここから学び、そして伝えてほしい」と胸を張ります。「こうした公園づくりが、郡内はもちろん、もっと多くの場所に広がるように!」
生き生きと遊ぶ子どもや親たちの笑顔がこの公園の価値の大きさを物語っています。インクルーシブな公園づくりをけん引する新たな拠点が、また一つ誕生しました。
ロングアイランドのLATCPプレイグラウンドをご紹介しました。