オハイオ州の州都コロンバスの近郊にあるウェスタービル市。人口3万7千人のこの市は、全ての住民と町を訪れる人々のため、優れた公園とレクリエーションの提供に力を入れてきました。
最近地元で家族連れの人気を集めているのが、Millstone Creek Parkです。これは、企業の出資する障害児支援事業からの寄付やNPOの協力を得て、市が2010年5月にオープンさせた公園です。 その特徴は大きく二つ。「誰もが楽しめるインクルーシブな遊び場」であることと、「自然の遊び環境」を取り入れていること。いったいどんな工夫があるのでしょう? 8月のある昼下がりに、現地を訪れてみました!
公園は道路が交差する一角にあり、奥には新興住宅地と、ウォーキング&サイクリングロードを備えたポプラの林が広がっています。100台近く駐車できるパーキングに面する草地(右の写真)は、サッカーなどの練習に使えるフィールド。この日はボール遊びを楽しむお父さんと子どもや、ゴール付近でシュート練習をする少年たちの姿がありました。
ゆったりとした障害者用パーキングのある入り口の右にはストリートバスケ用のコートと、左にはバーベキュー設備付きの休憩所があり、にぎやかにバースデーパーティが開かれています。その間を抜けるアプローチを進むと、長ーいボードウォークが出現!
小さな池を渡った先に見えてきたのが、遊具エリア(左の写真)と、自然エリア(右の写真)です。
まずは、緑が美しい自然エリアから探検してみましょう!
このエリアは、「テレビゲームなどで家にこもりがちな子どもも外へ出て、土・水・植物と遊ぶ楽しさを体験してほしい」とつくられました。また車いすなどに乗る子どもたちが、普段川岸に下りたり山道を散策したりできず自然に親しみにくい状況を踏まえ、アクセシビリティを考慮したデザインがされています
アクセシブルな歩道の脇で、ちょろちょろと水の流れる音が聞こえてきました。
4本のかけひ(筧/懸け樋)が組まれ、最も高い地点にあるポンプの蛇口から少量の水が流れ続けています。(ちなみに開園当初は付いていた手押しポンプのハンドル部分は、この時外されていました。)
かけひは、車いすからもアプローチしやすく無理のない姿勢で長時間遊べるため、多様な子どもが水に親しめる環境づくりに用いられるアイテムの一つです。また高さの異なる複数のかけひを設けることで、小さな子どもも自分に合った高さで遊べますし、次々と流れ落ちていく水の面白さも楽しめます。
ここではかけひがY字に分かれるポイントで、仕切り板を左右に動かして水の行方を決められる仕掛けがありました。素朴な仕組みの上、わずかな水しか流れていませんが、ちゃんと左右の水量が変わります。
Y字に分かれた先はというと、片側の水は地面に流れ落ち、もう一方は四角い木箱にためられていました。(どちらも地面に排水口などはなく、溢れた水はじわじわと歩道を横切り池へと流れ込みます。もしかして子どもが自然の道理を学べるよう「敢えて」そのまま?!)
木箱には砂が入っており、ちょっとした泥遊びができそうです。砂の他には、子どもたちが入れたと思われるウッドチップと、摘んできた葉っぱや花が浮かんでいました。
歩道からアクセスできる池には様々な在来植物が植えられ、白や紫の花が咲いています。対岸に渡れる飛び石のルートや、池を臨めるアクセシブルなデッキもあります。池では水泳、釣り、ボート遊びは禁止ですが、浅瀬で水遊びをしたりオタマジャクシを捕まえたりは大歓迎。カメやカモもいるそうですよ。お母さんたちの情報サイトでは、「この公園に行くなら着替えを持って行って!子どもたちは水辺で大はしゃぎだから!」というアドバイスも飛び交っています。
歩道を進むと、途中でちょっとした脇道がいくつも現れます。冒険に誘われた子どもたちが背丈ほどある草の間を駆け回り、思いがけない場所に出ては驚き、また歓声を上げて走り出す様子は、見ている大人も笑顔になる楽しい光景でした。また、虫を探しているのか、一人でじっくりと探索を続ける子どももいました。
ちなみに舗装された歩道の表面はのっぺりと平坦な仕上げではなく、天然石に似た自然な凹凸が付けられています。加えて(写真では分かりにくいのですが)、所々でいろいろな動物や鳥が脇道からひょいと出てきて歩道を横切ったかのような足跡が付けられているんですよ!
自然エリアには、岩(擬岩を含む)や倒木が置かれた小さな広場もありました。子どもたちがよじ登ったり、平均台のように渡ったり、仲間との遊びの拠点にしたりと自由に楽しめる場所です。
適切なウッドチップの選定等により地面で最低限のアクセシビリティを確保しながら、自然ならではの雰囲気と楽しさを演出するため、こうした物や植物までが注意深く配されています。
さあ、男の子と女の子の銅像がある場所に出てきました。二人の手には大きなカメ。公園のコンセプトを象徴する像なんですね。
こちらにも公園の入り口があります。向こうから男の子たちが猛スピードでやってきたかと思うと自転車を横倒しに乗り捨てて遊び場に一直線! 後から来たお母さんが「うちの子たちったら、ここに来るともう夢中で・・・」と苦笑しながら自転車を起こして並べます。
私たちも彼らに倣って、ここから遊具エリアへと向かいましょう!
まずはブランコエリア。ゴムのベルトシートのブランコと背もたれ付きのブランコが交互に並んでいます。
背もたれ付きブランコの安全ベルトとして、以前はベビーカーや車いすで使われるような布素材のシートベルトをバックルで止めるタイプが多かったのですが、今アメリカではジェットコースターの安全バーのようなハーネスタイプが増え始めています。
これはY字型のハーネスを跳ね上げた状態でシートに座り、下ろしたハーネスの最下部にある円い突起を、シート前面に付いているゴム製の小さなベルトの穴にパチンとはめて固定するスナップ方式です。
これまでアメリカで見た背もたれ付きブランコの中には、布製のシートベルト(特に細いもの)が劣化してちぎれるなどし、結局ベルトなしで使用されているケースもありました。こうした安全面の問題から、新しいタイプが開発されたそうです。
ハーネスを固定する方法はメーカーによっていろいろで、新たな課題もあるようですが、あらためて別のレポートで触れることにしましょう。
続いて、この公園で話題の遊具をご紹介します。次々と子どもがやってくるので、誰も遊んでいない無人の状態が1分と続かない人気ぶりです!
これは音と光を使った電子遊具で、赤や緑に光る周囲のパネルをタッチしたりキックしたりして遊びます。内蔵された8つのプログラムには一人で遊べるゲームの他、二人で協力したりチームで競ったりするゲームもあり、小さな子どもから大きな子どもまで、声を掛け合いながら光を追って駆け回り熱中しています。「やったぁ!勝ったー!」と仲間とハイタッチ。息が切れていてもすぐに「もう1回!」とゲーム再開です。これはかなりの全身運動になりそう。
子どもの運動不足や肥満が課題となっているアメリカで、子どもを屋外に連れ出すだけでなく、実際にどう運動に参加させるかを追求して生まれた一つのアイデア。日本でも受け入れられるかもしれませんよ。
大きな複合遊具には、地上からスロープで上がっていくルートに加え、土地の傾斜を利用して周囲に巡らせた歩道から直接2階のデッキ部分にアクセスできるルートもあります。
金属製の滑り台は、人工内耳を装用した子どもも安心して滑れるようにするため。最近主流のプラスチック製滑り台は静電気を発生しやすく、人工内耳の装置に不具合を生じさせる可能性があるからです。
右の写真は、大勢で乗り込み(車いす2台も可)、揺れを起こして楽しむ遊具。これまで1社の製品しか見たことがありませんでしたが、こちらの公園づくりを担当したメーカーからも去年発売され、早速置き換えられていました。
スロープ途中のデッキから乗り込むと、ちょうど浮き桟橋に踏み入れた時のように床が小さくゆらり。少人数でも揺れを起こしやすくなっており、お母さんと小さな子どもが向き合って座り、楽しんでいる姿も見られました。
他にも、複雑な回転を体験できる遊具や、様々な難易度のバランス遊具、指先の動きと頭を使って楽しむプレイパネル・・・と遊びの種類が実に豊富です。「ちょっとアイテムが密集しすぎ?」と思われる部分もありましたが、とにかく障害のある子どももない子どももいろいろな能力を伸ばせる機会が準備されています。実際のみんなの様子を見ても、「飽きることなく何時間でも遊べる」といった感じでした。
ここで、最近のアメリカの公園遊具の傾向をもう一つ。 左の写真はちょっとした洞窟のようなトンネル&ロッククライミング遊具。腕力のある子どもならトンネルの出入り口側から車いすでアプローチし、直接上に乗り移ることもできます。右の写真は、ごつごつした岩と岩の間に張られたロープを渡る遊具。
近頃、UD公園に限らずこのような擬岩や擬木を用いた自然志向の遊具が増えています。人工的で単調な公園に変化が加わりますし、例えば等間隔の梯子や段が刻まれた塔よりも、形が不規則でリアルな岩山の方が子どもたちの挑戦心や想像力がかき立てられるよう。
ここでも、小さな子どもが手や足を掛ける位置を探りながら懸命に登頂を目指したり、お兄ちゃんが誇らしげな笑顔で頂上に陣取ったり、女の子たちが岩陰に隠れて内緒話をしたり・・・一つの岩で様々なストーリーが展開されていました
最後にベンチの話を――。
こうしてたくさんの子どもが押し寄せる公園には、それを見守る大勢の大人のためのベンチが必要です。ここには、自然エリアと遊具エリアの間にテラス状に張り出したあずまやを含めて各所にベンチが置かれていますが、遊具エリアを囲む石垣も大人たちのベンチとして利用されていました。
石垣は、遊び場から子どもが不意に飛び出してしまうのを防ぐフェンスの役割も果たしていますが、金網や柵を張り巡らすよりも自然で魅力的。また木琴や鉄琴の置かれたコーナーでは、音の適度な反響にも石垣が役立っていました。 どちらの楽器も大変柔らかく澄んだ音色がするので、常に誰かが演奏している状態です。遊び場をふわりと包み込む心地よい音が、公園の雰囲気をより和やかなものにしていました。
Millstone Creek Parkのデザインは、市とNPOや障害のある子ども・家族との協働で行われました。市は多様な子どもが参加するサマーキャンプの協力を得て、どんな公園にするべきかのディベートや各プランへの投票も実施したそうです。
こうした公園課の姿勢には、障害を持つわが子のために自治体を相手に争うことが常だったお母さんたちが驚いたと言います。
『彼らは真剣に聞き、子どもたちや親から出されたアイデアをしっかりと取り入れてくれたの』
『ここでは全てが溶け合ってる。みんなが一緒に遊んでいる姿を見て本当に驚いたわ。幸せそうな笑顔がいっぱいなんだもの! 素晴らしきカオスね』
自然の要素と人工の要素を融合させ、多くの人のアイデアと思いを盛り込んだ遊び場は今、たくさんの親子にとって欠かせない成長と憩いの場になっていました。
市の公園・レクリエーション課が掲げてきた、重んじる価値観にはこうあります。
A COMMITMENT TO EXCELLENCE, COLLABORATION, TEAMWORK AND SAFETY -優れた質、協働、チームワーク、安全性の確約-
開園から2年――。高い人気を誇るMillstone Creek Parkをご紹介しました。