No.11 公園訪問inクイーンズランド・オーストラリア

ローマ・ストリート・パークランド

写真:川岸から望むブリスベン市街地

 近代的な高層ビルと歴史的な建物が混在するオーストラリア第三の都市ブリスベンで、多種多様な亜熱帯植物が植えられた美しい公園「ローマストリート パークランド」を訪れました。
 2001年にオープンしたこの公園は街の中心部、しかも駅やバスターミナルのすぐそばにあるということで、公園内外のアクセシビリティを重視してデザインされ、だれもが気軽に立ち寄れる憩いの場として人々に親しまれています。
 入口に置かれていた公園の案内図を手に、真っ先に目指したのがこれ!

写真:車いす用ブランコ。左右と後ろを壁で囲まれた大きな箱のような形のブースが4本の棒で吊られている。地面からブースの床の前部分にスロープがかかっている

 オーストラリアで開発された、車いすのまま乗れるブランコ「Liberty Swing」です。
 「車いすに乗っている子どもにも、ブランコで風を切って空中を揺れる楽しさを味わってほしい」

 公園で障害のある子どもが遊べずにいる姿にショックを受けたという開発者の方は、夢を実現するまで10年以上も試行錯誤を続けられたそうです。国の安全基準を満たしたこの車いす用ブランコは、2000年に第1号が公園に設置されたのを皮切りに、今ではオーストラリアのみならずニュージーランドやアメリカなど、250箇所以上の公園や学校、病院に導入されています。

 車いすのまま乗り込める大きなブースが吊られたブランコの構造は、日本で事故につながるとして撤去されつつある箱ブランコと少し似ています。しかしこのブランコには、二重三重の安全対策が取られていました。

 まず、ブランコエリアの周囲は高い柵で囲まれ、入口には鍵がかかっています。この公園の場合、利用希望者はすぐ近くにある公園の案内所に申し出て、所定の名簿に名前や連絡先などを書き込んで鍵を借りるという手順になっていました。

写真:柵の外側にいくつかのプレイパネルとベンチがひとつ。頭上には日除けのテント。

 柵の中に入れるのは、ブランコに乗る人と介助する人のみに制限されています。勢いよく揺れる大型のブランコに、他の子どもが接触する事故を防ぐための措置です。

 すると、たとえば車いすに乗っている子どもが家族でやって来た場合、本人と介助をする親は柵の中に入れますが、弟や妹などは外で待っていることになります。そうした子どもたちのために、柵の外にはいくつかの遊びの仕掛けやベンチ、日除けが用意されていました。

写真:ブランコの乗り方を文章で示した看板

 鍵を開けて柵の中に入ると、ブランコの使用法が詳しく書かれた看板がありました。

写真:車いす用ブランコ

 梁から吊られている黄色いブースには、スロープがかかっていますね。このスロープは一方が地面に固定されているので、この状態だとブランコはびくと動きません。車いすの人は後ろ向きでこのスロープを上がり、ブースの中に入ります。

 後部のチェーンを車いすのタイヤなどにかけてしっかりと締め、ブースの背後に収納されているシートベルトを出して体に装着。これで車いすに乗る人、車いす、そしてブランコのブースが一体となるわけです。

写真:ブースの側面。車いすの固定やスロープの取り扱いなど、重要な項目は図を使ってわかりやすく記されている
写真:鍵を開けてスロープを外し、地面に降ろしたところ。ブースは地上20センチくらいの高さ

 いよいよスロープを外します。案内所で借りた鍵は、シートベルトの収納ボックスを開けるときにも使いますが、ブースにかけられたスロープを外すのにも必要です。万が一、鍵を持たない子どもが柵を乗り越えてこのエリアに入っても、ブランコが不適切に使用されて事故が起こるのを防ぐためです。

 ブースにかけられたスロープを外して下ろすと、ブランコは静かにふわりと揺れました。その動きはまるで岸を離れて湖に漕ぎ出した舟のようで、思わず胸が躍りました。
 介助者はブランコの後ろではなく、横に立ってブースを揺らします。ブースは比較的軽い力でかなりの高さまで揺らすことができるので、緩やかな揺れもエキサイティングな揺れも体験できます。(実際にブランコに乗って楽しむ人たちの様子は、「Liberty Swing」のホームページでご覧になれます。)

写真:ブースの後部に組み立てられた小ぶりな椅子

 このブランコのもうひとつの特徴は、組み立て式の簡易シートがあること。
 もともとこのブランコは、従来型のブランコに乗り移って座り、座位を保つことが難しい子どもも、それぞれの体に合った自分の車いすに乗ったまま揺れを楽しめるようにと開発されました。しかし開発者の方は、車いす利用者以外にもブランコで遊べない子どもがいることに気付いたそうです。例えば腕がない、あるいは腕に十分な力が入らないため、鎖を持って体を支えることができない子どもたちです。

 そうした子どもも遊べるように考えられたのが組み立て式のシート。普段は床と背面に折りたたまれている2枚のパネルを引き出してジョイントさせれば出来上がり! 同じくシートベルトで体を固定して使用します。

 帰国後、工夫いっぱいのこのブランコの写真を、日本の車いすユーザーである子どもたちに見てもらい、感想を聞きました。

 「こんなの見たことない! 乗ってみたい!」
 「すっごく激しい揺れを体験したい!」
 というノリノリの意見や、
 「こわそう。だってブランコ、ほとんど乗ったことないし・・・」
 と未経験ゆえの不安気な感想、また
 「車いすの幅は何センチまで入れる? 友だちの車いすはぼくのより大きいんだ。みんな乗れる?」
 と学校の友だちみんなでこれを楽しむ場面を思い描いての質問など、いろいろなコメントが相次ぎました。その後、
 「えっ! これ日本にないの? じゃあ、遊べないの!?」
 と知った時、ノリノリだった男の子は急に肩を落とし、ふくれっつらで沈黙――。

写真:ブランコの斜め後ろから見た景色。ブランコの5メートルほど先に柵があり、その前を大きな園路が通っている

 続いて、安全のためブランコが柵で囲まれ、利用には鍵が必要なことや、他の子どもたちは柵の外で待つこと、主な遊び場は少し離れた別の場所にあること、またこのブランコが公園の主要な園路に面していて、目の前を来園者や園内をゆっくりと巡るトラムカーが行きかうことについてはこんな意見が・・・。

 「鍵だらけで、めんどくさくないかな」
 「柵で囲まれてるのがちょっとへんな感じ。妹や友だちは離れた柵の外から私を見てるってこと?」
 「前の道を知らない人たちが通って自分が注目されるのはいやだ。ぼくはもっと自由な世界で遊びたいんだっ!」
 「一人だけで乗るんだね・・・。ブランコってみんなと並んで乗るのが楽しそう」

 車いす用ブランコそれ自体は、だれもが気軽に楽しめる「ユニバーサルデザイン」の遊具とは呼べないかもしれません。主に特定の利用者を想定したものですし、子どもたちだけでは遊べません。また安全性を確保するための措置が厳重であればあるほど、人々に与える「特殊な遊具」という印象は強くなり、これで遊ぶ子どもたちが孤立感を抱くことにもつながります。

 2007年にオーストラリア・ビクトリア州が定めた障害児も遊べる公園づくりのためのガイドライン「The Good Play Space Guide」では、「車いす用ブランコは、障害のある子どもがブランコの感動を体験する貴重な機会を提供するが、他の子どもとの分離を促し、オールインクルーシブではないという議論もある」ことに触れた上で、導入する場合は「遊び場の中の楽しいルート上や、他のブランコと近い位置に設置する」ことを勧めています。

 ただこのブランコが人々に大きな喜びを与えているのは確かです。開発者のもとには、車いすに乗る子ども(&大人!)やその家族、友だち・・・いろいろな人からお礼や感動の言葉が寄せられるそうです。
 私たちがこの日、園内を歩いていて偶然耳にした3人の親子連れの会話をご紹介します。
 「・・・で、今日は何をして遊ぶつもり?」
 「まずねぇ、ブランコ!」
 「またかい? お前はほんとにブランコが好きだなあ」
 「うん!」
 お父さんとお母さんの間で声を弾ませていたのは、小学校低学年くらいの車いすに乗った男の子でした。

 続いてこの公園の他の遊び場にも行ってみましょう。

 車いす用ブランコの隣に緩やかな坂道が延びています。橋を渡ったところに赤いレバーを上下させて水を汲み上げるポンプがありました。多少の段差はあるものの、車いすからも操作ができる状態です。汲み上げた水は橋の下を流れるせせらぎに落ちます。水が大変貴重なオーストラリア。この水もきっと大切に循環されているのでしょう。

 坂道の途中にあるコンクリートの壁面には、自然の中でくつろぐ様々な人種・民族の人々の姿と、花の絵の中に世界各国の言葉で「こんにちは」と書かれています。多様な人々を歓迎するこの公園の精神が感じられます。

 緑の生い茂る坂道の途中に、不思議なものが立っています。ぶら下がっている金属製の棒をつまみ上げて放すと、棒の先が円盤にぶつかって「グワン!」。ドラのような音が鳴りました。九十九折(つづらおり)の坂道の所々に設けられた、遊びの仕掛けです。

写真:円く並んだ5本の柱をつなぐ梁から、5つのブランコがぶら下がっている。ブランコの下はゴムチップ舗装

 坂道を上りきると、もうひとつのブランコエリアがありました。
日本ではあまり見かけない円形に配置されたブランコで、ゴムのベルトシートのブランコと、腰の周りが少しカバーされたタイプのブランコが全部で5つ。友だちや家族と向かい合って乗ると楽しそうですね。

 周囲は高い木立に囲まれていて、鳥のさえずりが響き渡っています。さすが亜熱帯植物を集めた公園! 森の奥にある鳥の楽園に迷い込んだかのようなにぎやかさ・・・

写真:ブランコエリアの入口脇に立つ円柱状の緑の物体

と思っていたら、じつはブランコエリアの入口を通った時、センサーが反応して流れ始めていた鳥の声でした。ここでは本物の鳥も鳴いているのですぐには気づかなかったのですが、様々な鳥たちの声に囲まれて乗るブランコ、なんとも楽しい演出です。

写真:芝生の丘のふもとにある遊び場。遊び場の地面は4色のゴムチップ舗装。あまり人工的な雰囲気にならないよう不規則な塗り分け方

 こちらは少し離れた場所にある遊び場。覆いかぶさるような木々が木陰をつくり、子どもたちを紫外線から守っています。ここにはどんなUDの工夫があるでしょうか?

 オーストラリアの公園には、よくバーベキュー用グリルが設置されています。(ボタンを押すと鉄板が熱くなります。)無料で使えるところも多く、この遊び場の片隅にもちゃんと置かれていました。地元の人が週末などにバーベキューパーティをして楽しむわけですが、その時に使うテーブルとベンチにご注目。テーブルを支えている2つの足のうちの一方が中央に寄っています。これにより足元の空間がうまれ、車いすに乗る人も家族や友だちと同じテーブルを囲むことができます。

写真:2つのベンチが置かれたコーナー。ベンチと隣の花壇の間には1メートルほどの空間

 少し後ろに控えてつくられたこちらのベンチコーナーにも、ベンチの隣に空間がありますね。車いすやベビーカーがベンチと並んですんなりと収まる上、前を行きかう人々、駆け回る子どもたちと交錯する心配がありません。

写真:小さなジャングルジムのような遊具。下には地面に段差を付けて設けられた排水口がある

 ちょっと変わった工夫では、こちらの赤い小さなジャングルジム(?)。
この遊び場は緩やかながらも複雑にうねる傾斜地にあるため、遊び場の中央にもひとつ排水口を設ける必要があったようです。排水口の周囲にできた高さ20センチ近い大きな段差は、かまぼこ状の赤いジャングルジムで覆われました。
 これで視覚に障害のある子どもや車いすの子どもはもちろん、あらゆる人が不意に段差を踏み外してけがをすることはありません。遊びの要素を備えたデザインにより、子どもがここによじ登ったり上に寝転んだり、遊具のひとつとして活用されていました。

 最後に「UD」・・とは関係ないかもしれませんが、こんな表示を見つけました。

写真:禁煙マークの書かれた州政府の看板


 「この遊び場から10m以内での喫煙を禁止します」という看板です。
クイーンズランド州の禁煙法では、子どもの遊び場から10m以内が全面禁煙となっており、違反した人には罰金が科せられます。

写真:別の場所の遊び場でも同じ主旨の看板が掲げられている

 ちなみに上の写真は、別の町のショッピングセンターの駐車場脇にある小さな遊び場ですが、ここにも同じ内容の看板が掲げられていました。

 日本では都市部を中心に禁煙や分煙が進み、路上禁煙区域も広がりつつありますが、その反動として公園で喫煙する人が増えているのだとか。2008年に東京都千代田区が行なった調査では、場所や時間帯によっては公園利用者の6割から9割(!)が喫煙目的で来園していたそうです。

 せめて公園の遊び場は、小さな子どもやお母さんたちがタバコの煙に追いやられてしまうことのない場所であってほしいと願います。

 オーストラリア・ブリスベンから、あらゆる人を迎え入れる緑豊かな都心の公園「ローマストリート パークランド」をご紹介しました。

写真:園路にたたずみ池を眺めている大きなイグアナ
 (園路にて・・・)