No.09 公園訪問inクイーンズランド・オーストラリア(前編)

パイオニア・パークより

 オーストラリアで、あらゆる子どもが一緒に遊べる公園づくりに向けて、ユニークな取り組みが進行中!

 噂を聞いてやってきたのは北東の州、クイーンズランドです。
 州都ブリスベンから北へ約100キロ、カラウンドラ市のある小さな町に2年前(2006年)、障害の有無を問わないすべての子どものための遊び場(All Abilities Playground)が整備されました。さらにそれをきっかけとして昨年、州を挙げてのある魅力的なプロジェクトがスタートしたのです。

  一連の取り組みの中心となっているのは、同州の障害者部局(DSQ:Disability Services Queensland)です。幸いなことに、このプロジェクトの責任者でいらっしゃるLisa Handsさんたちに案内をしていただきながらの公園見学となりました。(Lisaさん、Julieさん、ありがとうございました!)

写真:パイオニアパークに作られた遊び場の入口。多様な子どもが遊んでいるイラストと共に「レッツ プレイ!」と書かれたゲートが立っている

 公園の名前は「パイオニア パーク」。
 この公園の中で、多様な子どもが楽しめる遊び場として重点的に整備をされたのは、約25m×15mというささやかなスペースです。 しかし、計画段階から、障害をもつ子どもやその家族の協力を得ていろいろなニーズを明確にすることで、多くのアイデアが盛り込まれたユニークな遊び場が実現したのです。  

 さっそく、ブランコから拝見しましょう。

写真:並んで吊られている2つのブランコ。左は板ブランコ。右は腰を覆う形にカーブした座面でシートベルトがついている。鎖の両脇にはそれと平行するように上から伸びた2本の握りバー

 左は板ブランコですが、右側のブランコはちょっと変わっていますね。 じつはこれ、腕の力でこぐブランコです!

 一般的なブランコ遊びでは、手や上体だけでなく足も大きな役割を果たしています。例えば、ブランコを勢いよくこぐためには、膝から先をタイミングよく後ろに曲げたり、前に振り出したりする動きが必要です。
 下肢に障害のある人がブランコに乗る場合は、誰かに背中を押してもらうことが多いのですが、「足に障害があっても腕力には自信がある!」という人もいますよね。このブランコは、そういった人も自分の力でこいで楽しめるように作られたものです。

 シートに座って手で持った左右の握りバーを、前に押し出したり後ろに引いたりすることで、徐々にブランコが揺れ始めます。実際に試してみると、かなり腕力とコツがいることが分かりました。
 Lisaさんは、「ちょっと難しいでしょ? 子どもには大変なので、たいていの場合はお母さんが背中を押してあげているみたいです」と教えてくれました。なるほど。確かに小さな女の子が、お母さんに押してもらってこのブランコを楽しんでいます。
 でもいつかこれが自分でこげるようになったなら、その子どもはきっと大きな達成感や自信を得られるでしょうね。

 こちらは、3つのシートが吊り下げられた回転遊具です(左の写真)。
 軽いゴム製のシートはしっかりと腰を覆う形で、シートベルトも付いています。また3つのうちのひとつは、背もたれや握りも付いたサポートタイプのシートでした(右の写真)。

 子どもたちがそれぞれのシートに座り、他の誰かがシートを吊っている鎖の部分(ビニールでカバーがされています)などを持って周りを走ることで、遊具が回転します。メリーゴーランドに似ていますが、シートに座った子どもたちは空中に浮いているので、より楽しいのでしょう。とても人気の高い遊具でした。

 続いてターザンロープ。(左の写真。現地では「フライングフォックス(オオコウモリ)」と呼ぶのだとか。) 頭上に渡したワイヤーを、滑車に吊るされたロープにつかまって「アーアア~!」とターザンのように移動する遊具です。  

 しかし右の写真をご覧下さい。この滑車に吊るされているのはロープではなく、背もたれと握りの付いたシートです。両肩から腰を固定する3点式のシートベルトも付いています。
 自分で体を支えることの難しい子どもも、風を切って滑空する体験ができるこの特製シート。その安全性や強度を増すために、シートは開園以降の2年間で既に2回、作り変えられたそうです。

 今までにない遊具の開発には、時間や労力やお金がかかりますが、こうした挑戦や試行錯誤のおかげで、新たな体験や楽しみを得られる子どもたちが増えていくのですね。こちらの遊具も大人気で、順番待ちをする子どもたちの中からは、にぎやかな歓声や笑い声が上がっていました。

 さて、問題です! これは何でしょう?

写真:三角おにぎりを横倒しにしたような形で、スツールにも似た人工の岩。1メートルほど奥に黄色い支柱が立っている

 答えは「バイブレイティング ロック」(日本語にすると「ブルブル岩」?)。 写真の奥に見える黄色い支柱の上の赤いボタンを押すと、手前のスツールのような岩から「グルグル・・ゴロゴロ・・」という低い音が響き始めました。表面がゴム舗装されたその岩に腰をかけると、座面から小さな振動が伝わってきます!
 とってもシンプルな遊具ですが、これが予想以上の楽しさでした。

 障害をもつ子どもの中には、大きな刺激が苦手な子どももいます。そうした子どもたちには、ほんの小さな音や振動がとても楽しい刺激になることがあります。また赤ちゃんを抱いたお母さんがこれに座っていることもあるそうです。不思議な音と穏やかな振動が、いろいろな人を引きつけるのでしょう。  

 この音と振動は、ボタンを押した後の数十秒間だけ続きます。ボタンは岩からやや離れた位置にあるので、岩に座ったままボタンを押すことはできません。
  もし、離れた支柱ではなく岩そのものにボタンが付いていれば、座ったまま好きなだけ楽しめるわけですが、「ボタンを押す」→「座って楽しむ」→「終わる」→「もう一回!」→「ボタンを押しに行く」という、手順を踏む楽しさもありそうです。

 ここで、支柱に寄りかかるようにして両手でボタンをずっと押している小さな男の子に出会いました。彼の背後では岩が振動しているのですが、男の子はひたすら支柱のボタンを押し続けています。何分も何分も・・・。彼はどこからか聞こえてくる「ゴロゴロ」という低い音が気に入っていたようでした。「ボタンを押し続ける」→「音が鳴り続ける」。男の子が楽しんでいる遊びの手順の矢印はひとつだけです。
 しかしそうしている間にも、いろんな人が笑顔で岩に触ったり、座ったりしていくのをちらりちらりと見ていた男の子は・・・

写真:1歳前半くらいの男の子が、岩に両手をついて立っている後姿

 ついにボタンを離れて岩に歩み寄り、お気に入りの音がここから響き、岩が震えていることを大発見! 今度はじっと岩に寄りかかっています。

 この後、岩の振動と音が止まった時、彼には「なんで?」という疑問と、それを解く(手順の存在に気付く)喜びが用意されています。さらにいつの日か、「そのボタン押して!」「今度はぼくが押すから、そこにいてね!」と誰かと一緒に遊ぶ楽しさや、この仕掛けを使ったゲームを友だちと考え出すというおもしろさも!?

 続いて、砂場をご紹介しましょう。

写真:砂場に置かれた2つのテーブル

 砂場の中央に向かってゴム舗装の地面が一部突き出しており、その両側には砂遊び用の細長いテーブルがひとつずつ設けられています。右は低めのテーブル、左は高めのテーブルですね。

写真:テーブルの上。手前から、円い回転板と蛇口、砂遊びの仕掛け、一番奥に大きな箱

 テーブルの上には、砂を流し落として遊ぶための「水車」ならぬ「砂車(?)」のような仕掛けや、ボタンを押すと水が出る蛇口などもありました(あいにくこの時は水が止められていました)。  
 ただ、砂車の仕掛けに砂を流すための位置がかなり高い所にあり、小さな子どもや車いすに乗る子どもは手が届きません。小さな子どもたちは、お父さんやお母さんに抱え上げてもらって、テーブルの上に立って遊んでいました。
 この仕掛けがもう少し低い場所に設置されていると、より多くの子どもたちが一緒に楽しめそうです。    

 それにしても各テーブルの端に設置されている大きな箱は、何でしょう?

写真:テーブルの上の箱。縦横がそれぞれ50センチほどで、高さは60センチほど。箱の側面には、「サンド」の字と下向きの矢印が書かれている。一番下(矢印の下の部分)には3つの穴

 「Sand(砂)」と書かれた箱の側面の一番下には半円形の穴が3つ並んで開いていますね。

写真:箱の内側を上から覗いたところ。ふたはなく、底板は穴に向かって斜めに傾いている

 箱の中をのぞいてみると、底板がその穴に向かって斜めに傾いた状態で取り付けられていました。
 この箱は、砂のサイロ(貯蔵庫)のような役割をしているのです。  

 まず砂場の砂を大きなバケツなどですくって、箱の中にどんどん入れていきます。砂は最初、一番下に開けられた3つの出口から流れ出ますが、小さな山になったところで穴がふさがるため、砂の流出はすぐに止まります。箱にたっぷりと砂がたまったら準備完了。
 テーブルについた子どもは、3つの穴の前にできた小山の砂を使って遊びます。山が小さくなると、箱の中からは新たな砂が自然に流れ出て、また止まります。出口の砂を除けるたびに、新しい砂山が出現するのです! 素朴な仕組みながら、この箱自体が楽しい遊具になっていました。

 車いすを使う子どもが地面に下りることなく砂遊びができるよう、砂場にこうした小さなテーブルが設けられる場合、下の砂場からそのテーブルまで砂を上げる手段が必要となります。  
 誰かにその都度、砂をすくってもらうことを前提にしている公園もありますし、井戸の釣瓶のような仕掛けを使って友達と協力することで砂を運び上げる工夫をしているところもあります。
 しかし、あらかじめ箱の中へたっぷりと砂をためておけるこのアイデアも、とても魅力的ですね。子どもたちは度々誰かに頼む必要がなく、箱の砂を使って心ゆくまで砂遊びを楽しむことができます。  

 さて、今回のパイオニア パークのレポートはここまで! まだまだあるユニークな工夫や、昨年始まった「州を挙げてのプロジェクト」については次回、「海外事例No.10」でご紹介する予定です。どうぞお楽しみに。