コラム特別編「この人に聞く」

No.3 QAAPP・Lisa Staffordさん

写真:Lisaさん

◆リサ・スタッフォードさん (旧姓 ハンド)
元クイーンズランド オールアビリティズ プレイグラウンド プロジェクトマネージャー

◆プロフィール
 私が遊び場を含む社会的、物理的環境に関心をもったのは、社会科学を学んだ経験からです。とりわけ、人と環境の関係性に着目し、質的調査や、障害をもつ人々との仕事をしてきました。特に情熱を傾けているのは、都市環境で暮らす障害をもつ子どもや若者、そしてその家族の生活体験を現象論的な考え方で明らかにし、理解する研究です。都市や社会政策、計画や設計について研鑚を積み、障害の有無を問わずすべての人がよりよい生活体験を得られる都市環境づくりに役立てたいと思っています。総体的に言うと、私の仕事と研究は、障害をもつ子どもたちやその家族のための遊び場の水準をつくることで、彼らに自分たちの権利や願望を認識してもらうことです。

 現在私は、クイーンズランド技術大学の博士課程の最終学年に在籍しています。博士論文のテーマは、異なる身体障害をもつ子どもたちの、都市環境における生活体験を明らかにすることで、自宅や学校、地域社会など様々な場所で、10人の子どもの実地調査を行っています。また2011年からは、クイーンズランド脳性まひ連盟の非常勤研究員の職に就き、環境要因が脳性まひの若者や大人の日常生活における参加にどう影響するかをマッピングするための調査をともに進めています。今年(2011年)、私はオールアビリティズプレイグラウンドプロジェクトに直接携わっているわけではありませんが、引き続き自治体や設計者たちに、すべての子どものための遊び場づくりに関する情報や知識、技術の提供をしています。

写真:オールアビリティズプレイグラウンドを紹介する看板

◆インタビュー

Q: オールアビリティズプレイグラウンドをいくつか訪れましたが、とてもユニークでよく考えられていますね。なにより地域の子どもや家族に大変な人気でした。 Lisaさんは、プロジェクトマネージャーとしてQAAPPをはじめから率いてこられたわけですが、この事業が実施された背景を教えていただけますか?

 オールアビリティズプレイグラウンドのアイデアは2004年に生まれました。少額ながら、家族で楽しく憩える場所づくりの予算がついたのです。私はそれまで障害のある人と都市環境に関する仕事をする中で公園にバリアや課題があることに気づいていたので、多様な子どもと家族のニーズに応える遊び場づくりこそ有効な資金の使い道だと考えました。そこでいろいろな家族に調査を行ってアイデアを固め、地元の自治体(元カラウンドラ市)との協働も取りつけました。サンシャインコーストにあるランズボローという町に、最初のオールアビリティズプレイグラウンドをつくる作業の始まりです。

 2004年の後半には遊び場づくりのワーキンググループが結成されました。メンバーは障害をもつ子どもやその家族、NGO、作業療法士、景観設計者や建設管理者を含む自治体職員、外部の設計者、製造業者らで構成され、この参加型プロセスが遊び場づくり成功への鍵となりました。サンシャインコーストの住民からも大きな支援を得て、インクルーシブな遊び場「パイオニアパーク」は2006年2月に完成しました。この遊び場への住民のサポートは2011年の今も続いています。

写真:パイオニアパーク

 この遊び場が評価されてオールアビリティズプレイグラウンドのコンセプトを州全体に広げることが選挙公約にも上り、5百万豪ドルもの予算がついたのです。私は2007年からQAAPPのコンセプト開発に取りかかり、16カ所の遊び場づくりを率いてきました。残念ながら資金に限りがあってプロジェクトチームは昨年解散したのですが、現在12の公園がオープンし、残る4つも完成に向け進行中です。

Q: すべての子どものための遊び場をデザインするにあたって、重要な要素は何ですか?

 いろいろな意見があると思いますが、私の経験では「すべての子どもが遊べる」「家族をしっかりと支える」「地方行政と産業界に学びと発展をもたらす」の3つのキーコンセプトを持った参加型のデザインプロセスですね。このプロジェクトでは、障害のある子どもや家族のニーズを確実に理解しデザインで応える必要があります。

 「今日では、そこを使うことになる家族たちに実際に尋ねもしないで遊び場をデザインすることなんてできないと思います。見当違いのものになってしまいますから。日常的に利用する人たちに聞かずして、何のための公園づくりでしょう? 聞くことは極めて大切です」 
(アンジーさん:母親、サーインゴワ リバーフロントのAAPづくりに参加したアンブレラネットワークグループの代表)

 この方法論をプロジェクトに一貫して適用することで、継続的な対話がもたらされ、具体的な検討場面では障害のある子どもやその家族、地域住民のニーズが最優先に考慮されます。この参加型アプローチは決して新しいコンセプトではなく、社会科学とデザインをつなげたヘンリー・サノフのような建築家たちの間で1960年代に起こった社会的建築への動きに端を発しているんですよ。

 また、前述の3つのキーコンセプトとは次のようなものです。

 いろいろな遊具で遊ぶ子どもたち「遊べる」ためにはまず、遊び環境を構成するすべてのスペースや要素にアクセスできるよう、駐車場からの連続した通り道が必要です。これにより彼らは仲間と同じ空間にいられるだけでなく、移動に様々な支援を必要とする子ども(車いすやクラッチ、歩行器のユーザーや歩行の不安定な子どもを含む)も自由に動き回り、遊び場で行われる鬼ごっこなどの集団遊びに参加できるようになります。  さらに障害などを問わず多様な子どもたちに、個人の年齢や能力に合ったいろいろなタイプの遊び(身体的、想像的、認知的、社会的遊び)を体験する選択肢と機会が提供されなければなりません。自然物であれ人工物であれ、子どもの遊び場には多様性、遊びの価値、そして挑戦が必要です。

 1.すべての子どもが遊べる: 
 「遊べる」とは、どの子どもも価値と目的を持った遊びを体験できることです。これまでの観察で私たちもよく目にしましたし、体に障害のある子どもたちからも語られることですが、彼らは他の子どもが遊ぶのをただ見ているだけか、「アクセシブル」とうたう申し訳程度のプレイパネルに追いやられてしまって、公園で度々つまらない思いをしてきました。

写真:いろいろな遊具で遊ぶ子どもたち

 2.家族をしっかりと支える
 これは家族全員で楽しんだり、リラックスしたり、日々の生活から離れてほっと一休みしたりできる安全で自由な環境を提供することです。中でも子どもがたくさんいたり、重い障害をもつ人がいたりする家族のニーズはぜひとも満たされるべきです。こうしたニーズが見過ごされ苦労を強いられる場所には、多くの家族が出かけるのをやめてしまいます。

 公園の一角にあるバーベキュー施設遊び場を容易に利用できるよう、家族が待望するのは次のような設備です。アクセシブルな駐車場、周囲を囲うフェンス、豊富な座る場所、ピクニックやバーベキュー施設、日除け、アクセシブルなトイレ(大きな子どもや大人が使う場合もあるので、少なくとも一か所には頑丈な着替え・おむつ替えシートがあるとよい)。また、子どもと大人がいっしょに使える多目的トイレも挙げられており、これらは小さな子どもが何人もいる親にとっても有益です。

写真:公園の一角にあるバーベキュー施設

 3.地方行政や産業界に学びと発展をもたらす:
 これは子どもや障害、遊び場に関する考え方とデザイン実践の転換を図るために、行政や企業と協働して新しい知識や技術を構築するということです。プロジェクトでの学びが、今後彼らのつくる新しい施設や環境にも活かされることを狙っています。

Q: 公園のつくり手側(自治体や設計者、メーカーなど)には、従来よりもずっと革新的な考え方やアイデアが求められたことと思います。プロジェクトでは、どのような手法をとったのですか?

 上述の通り、行政と産業界に「学びと発展をもたらす」ことはすべての子どものための遊び場づくりにおける重要なコンセプトです。そのため参加型デザインプロセスの強みを生かし、子どもや家族と同様に行政や設計者、企業をしっかりと巻き込んでいます。お互いを尊重し学び合い協働することが成功に不可欠な要素ですから。

 行政や産業界に対しては様々な手法を用いました。まず知識や技術の促進に向けた仕掛けとして『QAAPPデザインフレームワーク』を作成しました。この資料の目的は次の3つです。1)子どもや家族が従来型の公園で直面しているバリアに対する認識や理解を高める、2)参加型アプローチの内容を明確にし、デザインプロセスへの適用法を示す、3)先行事例であるパイオニアパークでの実践を紹介する。

写真:QAAPPデザインフレームワークの表紙

 またこれを補強するため、プロジェクトチームや他の専門家と次のような継続的サポートを行いました。

 参加型アプローチと取り組み
行政に提供したのは、取り組みのための具体的なスキルやツール(例:あらゆる子どもが利用できるコミュニケーションシンボルを取り入れた公園デザイン活動ブック)、『デザインフレームワーク』の活用指導、参加型の取り組みにおける計画策定の補助などです。さらに公園のステークホルダー向けのワークショップやアクティビティのファシリテーション、スタッフを養成するための遊び場での観察調査、遊びやまちづくりの専門家の派遣なども行いました。

 デザインと技術的詳細
 複雑なニーズをもつ子どもの遊び体験をよりよいものにするためにデザイン向上の支援を行い、行政と企業が連携してバリアやデザインの課題解決に当たりました。支援の例としては、州をまたいだ遠隔会議方式での教育ワークショップ(都市計画立案者で専門技師のクライブ・ドッドさんによる遊び場のデザインと安全性に関する2日間の講義)、遊び環境の質を高める設計解の提示、クライブさんの協力のもと図面評価と課題に対する技術的解決策の提示、行政間の情報共有プログラムの策定、詳細設計の協力者として地域の理学療法士や作業療法士の活用などです。

Q: QAAPPでは、利用者の参加が大きな鍵でした。地域住民は、このプロジェクトにどのように携わったのですか?

 各自治体は新しい遊び場のデザインに住民の希望を反映させるため、地域を包括的に巻き込む戦略を立てました。この住民参加の実現に必要だったのは、多様な手法と機会の提供です。住民は一人一人異なり、違う好みをもち、自分の考えやニーズ、嫌なことを自分の望む方法で表明したいと思っています。例えば子どもたちからはアクティビティ中心の手法の方がよい反応が得られますし、コミュニケーションに障害がある人は自分の意見を表す独自の手段をもっている場合もあるので、私たちはそれを可能にする必要があります。

写真:子どもたちが描いた公園の絵

 いろいろな手法を組み合わせ、次のような多様な機会を設けました。重要なステークホルダーを対象としたグループインタビューや1対1のインタビュー、地元のあらゆる小学校(州立・私立・特別支援学校を含む)でのスクールワークショップ、子育てグループや教師と親のグループなど特定の対象者に向けたワークショップ、仕上げとして地域のすべての学校で子ども向けに実施した「マイプレイグランドデザイン」、住民からのフィードバックに沿ったデザインプラン改良のためのワークショップなどです。こうした多様な機会を通して、地域の人々は自分たちの遊び場の計画や設計に直接関わることができました。

写真:ネットの皿型ブランコで遊ぶ子どもたち

 地域を巻き込むことの重要性について、次の人たちが率直にこう表現しています。

 「私たちが参加して、これが有効だとかこれは駄目だとか言うことなしに、どうやって私たちの求めていることをわかると言うのでしょう? それを利用する人を参加させないで物をつくるなんて無理です。だって私たちが言ったり、要求を出す機会を得たりしないままでは、私たちの望みは誰にもわからないんですから」
(ジョアン・アーガイルさん、車いす利用者、ピアルバ シーフロントのAAPづくりに参加)

 「このように大きなプロジェクトでは、様々な人の意見や考え、体験をたくさん聞いて反映させる必要があると思います。異なるグループやいろいろな声――みんなのアイデアをいっしょにするんです」
(ジェニーさん、アンブレラグループからサーインゴワ リバーフロントAAPづくりに参加した母親)

Q: オーストラリア同様、日本でもインクルーシブデザインに対する認知が広がりつつあります。しかし子どもの遊び環境に関して言えば、その道のりはまだまだ遠いと言えます。何かアドバイスやご提案はありませんか?

 諦めないこと。
粘り強さと忍耐力が大切です。従来の前提を変えるには時間がかかるもの!

 教育と積極的支援が鍵!
変化を引き起こすには、実地の支援や経験を通して知識と技術を生むのが一番です。障害の有無を問わずすべての子どもにフレンドリーな環境をどうつくるべきか、産業界の理解はまだ低いので。

 妥協しないこと
物事を決定する際、常にすべての子どもを最優先に考えることです。妥協はしばしば子どもにとって遊ぶ権利の喪失を意味します。車いすユーザーの子どもも、立つことができない子どもも、同じ遊びの機会と選択肢が与えられるべきです。

写真:スロープを下りていく小さな子ども

Q: Lisaさんのご協力のおかげで、QAAPPから多くを学ぶことができました。みなさんの素晴らしい実践や資料は、これから他の地でもきっと様々な人の助けになることと思います。
 最後に、Lisaさんにとって、この分野での今後の課題は何ですか?

 プロジェクトを終えて課題と感じるのは、遊びにおける安全性とアクセシビリティの技術仕様にはギャップがあり、産業界に規定がないことです。オーストラリアでは今年、建築基準法に公共施設へのアクセスが盛り込まれましたが、これは障害をもつ子どもが特に必要としている遊び環境へは適用されません。子どもたちのために遊び場や近隣の通りを含む都市空間を国全体で変えていくよう、今後も提唱を続ける必要があります。私のもう一つの課題は、自分の知識をより多くの人と共有し新たなツールやリソースを開発するための資金を得ることです。オールアビリティズプレイグラウンドをオーストラリアで、そして世界のあちこちで作る手助けをしたいですね。

――リサさん、貴重なお話をありがとうございました。

(メールによるインタビュー / 2011年8月)