No.05 都議会議員・龍円愛梨さん

写真:笑顔の龍円愛梨さんと息子のニコくん

◆龍円 愛梨(りゅうえん・あいり)さん
法政大学法学部卒
1999年~2011年 テレビ朝日 アナウンス部・報道局記者として勤務
2012年~ 退職後に渡米し、カリフォルニアで長男を出産
2015年~ 帰国後、ダウン症のある子と親の支援活動などを開始
2017年~ 東京都議会議員(渋谷区)
2019年  第14回マニフェスト大賞グランプリ受賞

◆龍円愛梨オフィシャルブログ
「Sunny Life with NICO」

Q:今年(2020年)の春、砧公園に障害のある子もない子もすべての子どもが共に遊び楽しむことのできる遊具広場「みんなのひろば」がオープンしました。
都立公園で初となるこの取り組みは、都議会での龍円さんの提案がきっかけだったそうですね。インクルーシブな公園の必要性を訴えられた背景を教えていただけますか?

 アメリカで生まれた息子との体験

 息子のニコが生まれた2013年、私はカリフォルニア州のサンクレメントという海辺の小さな街に住んでいました。彼にダウン症があるとわかった時は、頼れる親や友人のいる日本に戻るべきかなと悩みましたね。でもあちらで教えられた連絡先に一度電話をしてみたところ、各種の療育や医療の紹介、カウンセラーの自宅訪問まで幅広い支援が降り注ぐように提供されたんです。おかげですぐに必要なサポートを受けながら仲間ともつながれ、不安のない楽しい子育てができました。

 その頃通っていたコミュニティ・カレッジで、アメリカでは障害のあるすべての子どもがこうした包括的な支援を得られるよう法律で定められていると知り感銘を受けました。インクルーシブな遊び場のこともそこで知ったんです。
授業で配られた地域のインクルーシブ公園のリストには、自宅近くの小さな公園も入っていました。さっそく行ってみると特別な看板などは一切ないんですが、「たしかに!」と納得の配慮がたくさんあったんです。

 たとえば当時1~2才だった息子はまだ歩けなくてお尻を地面についた状態でズリズリと進んでいたんですが、地面が柔らかいゴムチップ舗装なので服が汚れたり破れたりしないし安心。遊具も、幼児から車いすユーザー、他の障害のある子どもも楽しめるよう高さやデザインがいろいろ工夫されています。息子も自力で動き回って楽しく遊ぶことができました。

 2015年に帰国して日本の公園に行った時、アメリカとはかけ離れた状態に大きなショックを受けましたね。息子を遊ばせようにも地面は堅い土だし、遊具を使うには親が常に支えなければならない。子どもは楽しめず、親もハラハラしながらの付添いで行く度にすっかり疲れてしまいます。あらためて「この国は子どもにお金を掛けていない」「遊びが重要視されていないんだ」と感じました。そうした経験から、スペシャルニーズのある子どもたちに包括的な支援を実現したい、インクルーシブな社会をつくりたいという思いで議員になりました。

 インクルーシブな社会をつくるには、子ども時代からみんなが一緒にいてお互いの違いを受容したり、自然に関わったりすることが大切だと思うんです。障害のある人と接する機会のないまま大人になって初めて「これからはダイバーシティの時代だから仲良くしましょう」と言われても、気構えてしまったり逆に手伝いすぎてしまったりしがち。子ども時代からインクルーシブな環境をつくるには、公園の遊び場をインクルーシブにすることが大切だと思っています。

 インクルーシブな公園ができると

 アメリカの親たちは障害があってもなくても積極的に出歩きますが、日本では障害のある子どもとの外出に抵抗を感じる親御さんもいますよね。公園でも周りの目が気になったり、「自分たちのいる場所じゃない」と疎外感を抱いてしまったりして家にこもり、孤独な子育てに陥りやすいです。

 でもインクルーシブな公園があれば、親は「うちの子も出かけていいんだ!」と思えます。行くと他の親子や地域の人たちと出会え、社会へ出る一歩になります。それに地域の人も公園でいろんな子どもや親と挨拶を交わしたり関わったりできて相互理解が進むと思うんです。

 もちろん子どもたちも! 子どもどうしって、ほんとすぐになじみますよね(笑)

 息子はこの春、一般の保育園を卒園したんですが、彼はそこでみんなと仲が良くて人気者でした。すると私まで他のお母さんたちから声を掛けられることが増えたんです。どうやら家でお子さんから「今日、ニコちゃんがこうだったよ」「ニコちゃん大好き」といった話をたくさん聞くそうで(笑)

 中でも嬉しかったのは、あるお母さんから「インクルーシブな環境がニコちゃんのために良いのはわかる。でも私がそれに賛成しているのは自分の子どものためにも良いことだとわかったからなの」と言われたことでした。スペシャルニーズの子どもとの関わりがあると、大人の意識も変わってくるんですよね。インクルーシブな公園でもきっとそんな変化が生まれると思っています。

写真:遊び場で他の子どもと関わるニコくん
写真提供:龍円愛梨さん

Q:息子さんと歩んでこられた経験や思いが、議会での提案につながったんですね。
行政の皆さんはインクルーシブな遊び場づくりをどう受け止められましたか? また実践の過程で気づかれた課題やポイントがあれば教えてください。

 「たしかに必要だ」

 2018年の本会議でインクルーシブな公園を提案させてもらったところ、公園を担当する建設局の方から「たしかにこれまでこんなコンセプトの公園はなかったが、重要だと思う」との回答をいただきました。さっそく初年度に調査・研究が行われて、翌年度に砧公園と府中の森公園での整備が決定したんです。今後のモデルにもなるよう予算が増やされ、アメリカへの視察調査も実施されたそうです。

 まだ経験の浅い一議員の提案が都で実現されるケースは少ないんですが、「たしかに必要だよね!」と皆さんが納得のいく内容だったのだと思います。

 当事者の声を反映するために

 一つ、課題だなと感じたのは、障害のある子どものリアルなニーズが公園をつくる方たちに伝わりにくい点でした。そこで建設局の方に自分の知っている自閉症や発達障害、肢体不自由、ダウン症などいろいろな子どもの支援団体をご紹介しました。

 最初は「どう設計すればよいのか」と戸惑いのあった行政の方たちも、今まさに子育て中の親たちから話を聞くうちにインクルーシブな公園のニーズや期待の大きさを実感されたようで、「これはやらなくちゃ!」という思いで熱心に取り組んで下さいました。

 他の自治体でもぜひ公園課の皆さんだけで決めてしまわず福祉系の部署などと連携して、地域の当事者の声を踏まえた整備を進めていってほしいと思います。

写真:開園した砧公園の遊び場。大勢の子どもたちでにぎわっている。
写真提供:龍円愛梨さん

Q:なるほど。実際、砧公園の開園時に障害のある子どものお母さんから「私たち、ここをつくるのに都から意見を聞かれたんですよ。それがちゃんと反映されていて嬉しい!」「これからもお友達を誘って遊びに来たい」といった喜びの声を聞きました。
龍円さんが「みんなのひろば」をご覧になっての感想や、皆さんからの反響はいかがでしたか?

 たくさんの笑顔

 帰国してからずっと夢見ていたインクルーシブ公園が実現し、子どもたちの笑顔もたくさん見られて感無量でした! 普段は公園で見かけることのない重度の障害を持つお子さんも楽しんでくれていましたし、息子が笑顔で遊んでいる姿も嬉しかったですね。

 印象的だったのは、息子と一緒にブランコの列に並んでいた時のことです。私たちの前で、障害があって足に補装具を付けた女の子が、背もたれとハーネス付きのブランコに乗ったんです。彼女がブランコを思い切りこいで「きゃ~!」と歓声を上げている姿を見てジーンときましたね。

 さらにその時、私たちの後ろにいた男の子がお母さんに「ねえ、このブランコは障害のある子のためのブランコなの?」と尋ねたんです。するとお母さんは「この公園はみんなのための公園だから、誰でもが乗れるブランコなんだよ」と答えました。心の中で「その通りっ!」とすごく嬉しくなりましたね。まさにそんな会話が生まれてほしいと思っていたし、これからもここが親子でそんなことを考えたり話したりするきっかけの場になってくれると思います。

 眠っていたニーズ

 周りにも「さっそく行ってみたよ!」という人がいっぱいいて、反響はとても大きいですよね。人工呼吸器を使っている小学生の女の子のお母さんは、「この子はまだ人生で一度も公園で遊んだことがなかったけど、今回初めて遊べる。娘もすごく楽しみに待ってた」と教えてくれました。

 また肢体不自由の子どものお母さんからは「子どもを公園になんて考えたこともなかったし、遊ばせたいと思ったことすらなかった。まさか自分の子どもが遊べる公園があるなんてびっくりで嬉しい!」という声も。公園で「初めて」遊ぶ子どもたちの喜びって特別じゃないですか。建設局の皆さんも「やってよかった!」と感じて下さったようです。

 今まではこういうニーズはないと思われていました。でもそれはみんながインクルーシブな公園を知らなかったからなんですよね。こうして実物ができれば「あの公園いいじゃん!」となる。砧公園が日本の公園改革の火付け役になってくれることを期待しています。

写真:「みんなのひろば」の看板の前で笑顔の龍円さんとニコくん
写真提供:龍円愛梨さん

Q:実際に「みんなのひろば」が新聞や雑誌にも取り上げられたことで関心が高まっていますね。
東京都としては、もう一つの府中の森公園の遊び場整備の他に、さらなる計画もあるそうですね?

 ガイドと助成金

 そうなんです。都立公園で2つの遊び場ができても、行くのに片道2時間とかではインクルーシブな社会の実現には不十分ですよね。めざしたいのは地域の子どもたちが日常的に混じり合いながら育っていける環境です。そのため他の自治体にも取り組んでもらおうと都の建設局がノウハウを提供しています。さっそく豊島区と渋谷区が名乗り出てくれて、現在計画が進んでいるんですよ。

 ただ、質の高いインクルーシブ公園をつくるには費用が従来の2~3倍かかるケースもあって、市や区によってはハードルが高いんです。そこで都がインクルーシブ公園のガイドのようなものを作成して、その条件を満たす公園には助成金を出すという制度を提案しました。東京都は2020年度中に区市町村とも意見交換をしながら、ガイドラインの作成をすることになり、同時に助成金についての検討も進めてくれています。早ければ助成金も2021年からスタートできるかもしれません。

 この変化を企業や全国の自治体にも

 そうなると公園遊具メーカーも「もっとインクルーシブな遊具に力を入れていこう」となりますよね。今は輸入品が多いようですが、やがて国産のインクルーシブ遊具が増えて選択肢が広がれば値段も下がると思うんです。徐々に全国の自治体でも導入が進みやすくなることを狙っています。

 また私個人では去年、インクルーシブ公園をいろんな方に知ってほしくて全国的な政策コンテストに参加し、グランプリをいただきました。その後、各地の議員さんたちから「うちの自治体でも提案したいので教えてほしい」「議会で提案して実現することになりました!」といった連絡をたくさんいただいて嬉しかったです。

 5年後くらいにはあちこちにこうした公園が増えているかもしれませんね。以前アメリカで見たように、「ここはインクルーシブ公園です」なんて謳わなくても近所の小さな公園がインクルーシブになっていることが最終目標です。

写真:ブランコエリア。順番待ちの列ができるほどの人気
写真提供:龍円愛梨さん

Q:私たちの元にも遊具企業や自治体の方からの問い合わせが増え、障害を持つ子どもの家族や支援者の方からも期待の声が届いています。
最後に多様な公園ユーザーの皆さんにもメッセージをいただけますか?

 みんなの力でできること

 じつはこれを機に、スペシャルニーズの子どもの親御さん自身も動いて下さったそうなんです。「自分の街にもインクルーシブ公園がほしい」と公園課に何度も掛け合ってついに実現することになったという例をいくつか聞いて感激しました。またその自治体の方が、「政治家に言われたから」ではなく市民の声を聞いて動いて下さったこともすごく嬉しいですね。

 もし自分の地区にインクルーシブ公園ができたら、スペシャルニーズの子どもや家族の皆さんにはぜひどんどん出かけてもらって、そこを人と人が交わる場にしていってほしいです。障害のある人もない人もみんなが「違うって素敵なんだな」「違いを認め合うって気持ちいいな」と気づく場所として活用してもらえたらと思います。

 インクルーシブな社会とは

 日本ではまだ「インクルーシブ公園」=「障害のある子どもが遊べる公園」なんて誤解もされやすいですが、正しくは「障害に限らずどんな違いがある子どもも一緒に楽しく遊べる」公園ですよね。私は「誰もが仲間になれる」という意味で『みんな仲間だよ公園』なんて呼んでいます(笑)

 同じように、「インクルーシブな社会」というのは、「スペシャルニーズのある人が生きやすい社会」ではなくて「すべての人が生きやすい社会」です。インクルーシブな社会づくりとは、「自分たちの社会にマイノリティの人を入れてあげる」のではなくて、「みんなが生きやすい社会を新たにつくる」ことなんだと、そして「それはあなたにとっても生きやすい社会になる」のだということをぜひ多くの人に知ってほしいです。

 これからスペシャルニーズのある子もない子も「一緒に楽しく」遊べる公園がインクルーシブな社会をつくっていく拠点として日本でどんどん広がってくれたらと思っています。

 将来そこで遊んだ子どもたちが社会に出てどんな風に活躍してくれるか、今からとても楽しみです。

――貴重なお話をありがとうございました。

(2020年7月16日のインタビューより)