If you build it, they will come.
(それをつくれば、彼らはやって来る)
「フィールド・オブ・ドリームス」という映画をご存知でしょうか。
アイオワで農業を営む主人公レイ(ケヴィン・コスナー)は、“If you build it, he will come.”という不思議な声を耳にし、大切なトウモロコシ畑をつぶしてナイター設備のある野球場をつくります。当初、彼の決断に理解を示したのは家族だけでした。やがてそのグラウンドに、かつて八百長疑惑で球界を追放された伝説の野球選手たちが、当時のままの姿で現れるようになります・・・。
彼ら選手、レイ、それぞれが胸の奥にそっと抱いていた夢が現実となった、小さな奇跡の球場。
ラストシーンでは、その夢の球場にやって来る人々の車が連なり、日の暮れたトウモロコシ畑にヘッドライトの光の帯が長く、長く延びていきます。
* * *
アメリカのNPO「バウンドレス プレイグラウンド」が生まれたきっかけをご紹介します。
1995年1月。Amy Jaffa Barzach さんは、愛する息子Jonathanを脊髄性筋萎縮症で失いました。わずか9ヶ月という短い命でした。深い悲しみの中、彼女はわが子を追悼するため、何か意義のあることに取り組もうと、夫とともに模索します。
そのとき頭に浮かんだのは、ある日、息子たちと行った近所の公園で目にした一場面でした。
遊び場の片隅に、車いすに乗った幼い女の子がいました。
女の子は、他の子どもたちが遊んでいる姿をじっと見つめています。
車いすのハンドリムを握りしめ、あふれそうな涙をこらえながら――
それは彼女にとって忘れられない光景でした。
「もし生きていれば、息子もいつか車いすに乗るようになったはず。
そしてあの子と同じように、遊びたい気持ちを胸に抱えたまま、一人ぼっちで歩道に立ち尽くしたでしょう。
これこそ取り組むべきことに思えたんです」
あらゆる子どもたちが一緒に遊べる公園づくりを決意したAmyさんたちは、努力の末1200人のボランティアを集め、1996年、コネチカットに夢の公園Jonathan’s Dreamを完成させました。
数週間後、この誰もが利用できる公園(Universally Accessible Playground)を紹介する小さな記事が雑誌に載りました。すると「私たちもこんな公園をつくりたい」と、全国の何百という個人、団体、学校、NPOから、彼女に協力を要請する声が寄せられたのです。
翌年、AmyさんたちはNPO「バウンドレス プレイグラウンド」を設立させました。
このNPOの支援で一つの公園ができると、噂を聞いていろいろな所から、多様な子どもたちとその家族が公園を訪れます。
「僕も公園で遊べた!」「子どものこんな笑顔が見られるなんて!」という感動から、中には週末ごとに、車で数時間かけて公園に通う親子も出てくるそうです。
やがて、「自分の町にもこんな公園がほしい!地元のあらゆる子どもたちがいつでも一緒に遊べるように」という声が上がり、また一つ、遠く離れた町であらたな公園づくりがスタートします。
そしてできあがった次の公園には、また新しい子どもたちが・・・。
こうした循環を繰り返し、このNPOが手掛けた公園の数は全米で100を越え、今も数十の計画が進行中です。
If you build it, they will come.
(それをつくれば、彼らはやって来る)
それはきっと、「誰もが遊べる公園」が、ほんの一部の人だけの夢ではないからです。