2006年の夏、アメリカ コネチカット州。
障害の有無にかかわらず、あらゆる子どもが一緒に遊べる公園づくりに取り組んでいるNPO「バウンドレス プレイグラウンド」の事務所を訪れた時の話です。
日本からの珍しい訪問者を快く迎えてくれたのは、上級スタッフのテルッツォ氏でした。
持参していた、障害児にも配慮した日本の公園遊具の写真を彼に見せたところ、「素晴らしい」と評価しつつもすぐに指摘が始まりました。
「スロープが長いし、傾斜が急すぎるね」
「ここは実際、車いすを使っている子どもは通り抜けられないでしょ?」
「デッキに上がれても一つの遊びだけでは、これで遊べない子どもは後戻りするしかない」
・・・・・私たちが気にかけていた点を次々と言い当てられたのです。
「障害児が公園で遊べないことを問題ととらえて、工夫が加えられたこと自体は素晴らしい。アメリカでもそうだが、今までほとんどの公園が彼らをただ置き去りにしてきたのだからね。
しかし実際に多様な子どもたちの、真のニーズに応えるには、さらなる配慮が必要なんだ」
こう言うと、彼はある言葉を教えてくれました。
Ramps to Nowhere -どこへも行けないスロープ-
「たとえば車いすの子どものために、遊具にスロープを付けることは多くの大人が考えつく。
でもスロープで上がった先が、子どもたちの本当に楽しめる場所になっていなければ、せっかくだがそのスロープにはまるで意味がないんだよ。
私たちはそれを “Ramps to Nowhere” と呼んでいる。
Universally Accessible Playgrounds -誰もが利用できる遊び場- の目的は、障害児をアクセスさせることじゃない。
あらゆる子どもがいきいきと遊べるようにすることだ」
日本では近年、駅や公共施設などを中心に、障害者だけでなく子どもからお年寄りまであらゆる人が公平に、かつ快適に利用できる場所が増えてきました。バリアフリー対策やユニバーサルデザイン(UD)の考え方が、「まち」に浸透してきたためです。
一方、公園(とくに子どもの遊び場)のUD化は、まさにこれからという発展途上です。
表面的な解決策やおしきせの対処法ではなく、本当のゴールに近づき続けるために、私たちは、テルッツォ氏の言葉を胸に刻んでおくべきだと思うのです。