コラムNo.07 ユニバーサルデザインの真価:社会変革のための戦略コンセプト

 ユニバーサルデザインとバリアフリーの違いは何か? これは、ユニバーサルデザインという考え方の登場以来、ずっと問われ続けているものです。特に日本では、ユニバーサルデザインが福祉の分野で扱われることが多かったために、今でも両者の違いが十分に理解されていないようです。しかし、同じものであるなら、既にあったバリアフリーに対して、新たにユニバーサルデザインという考え方が登場する必要はありません。両者には決定的な違いがあり、先に登場したバリアフリーでは超えられない壁を越えるために、ユニバーサルデザインが必要になったはずです。その壁とは何か、改めて両者の違いの核心部分を考えてみたいと思います。いくつかの視点で何回かに分けることとし、今回は、社会変革のための戦略コンセプトという切り口で考えます。

 ユニバーサルデザインもバリアフリーも、製品、環境、情報、サービスなどが、障害者など特定の人にとって使えない/使いにくいものであるという「アクセスの問題」を解決するための考え方、そしてその実践です。現状のデザインにアクセスの問題がある場合、真っ先に思い付く解決の方法は、当然ながら問題に対して対処療法的に手を打つことです。例えば段差があればスロープを付ける、一般の製品が使えなければ、使える専用品(福祉用具)を開発するなど、特別なニーズのための特別なデザインです。これがバリアフリーで、これでアクセスの問題は解決するのですが、致命的な限界があります。それは、社会全体としてのアクセスの問題解決の質と進展のスピードです。

 その原因は、アクセスの問題解決を行う「」にあります。バリアフリーでのそれは、特別なニーズのための「専用品」という場です。専用品に取り組むのは、一部の企業、一部のデザイナーや設計者、一部の行政担当者などです。社会全体として捉えると、予算や人材はわずかで開発機会も限定的でしょう。バリアフリーでは、アクセスの問題が社会の主流ではなくごく一部のことになるため、社会全体としてはアクセスの問題解決の質も上がり難く進展も遅くならざるを得ません。

 急速な高齢化や障害者の権利意識、ユーザー意識の高まりの中、ダイナミックにアクセスの問題解決の質を上げ、進展を早めるためには戦略的なコンセプトが必要です。そこに提示されたのがユニバーサルデザインで、その戦略とは、「アクセスの問題解決の質を高め進展を加速するために、場を専用品から一般品に移して圧倒的な市場競争のダイナミズムを利用する」というものです。

 アクセスの問題解決を「一般品」の場に移すことで、それは全ての企業、全てのデザイナーや設計者、全ての行政担当者などが関わるべきものとなります。これにより、社会全体でアクセスの問題解決に取り組む機会が飛躍的に増大し、そこに投入される資源(ヒト・モノ・カネ・情報)が格段に増えます。その結果、一般品の激しい市場競争の中で、競争原理によって、アクセスの問題解決の質が高まり、進展が加速していきます。最近の世界的な自動車メーカーや家電メーカー等でのユニバーサルデザインの取り組みは、ユニバーサルデザインというコンセプトにより、アクセスの問題解決の場が一般品に移ったこと、そしてその多大な効果を実感させられます。

 バリアフリーというアプローチが、アクセスの問題解決の手段として有効ではあるものの、解決の質や進展速度を上げるための推進力が内在していなかったのに対し、ユニバーサルデザインは、その爆発的な推進力を内在させた、社会変革のための戦略コンセプトとして提示されたものだと言えるでしょう。