公園を知る「国内事例」

No.08 水や、葉っぱや、木の実も遊び道具(後編)

東京都 立川市・昭島市「国営昭和記念公園」

 前回に引き続いて、昭和記念公園の「わんぱくゆうぐひろば」をレポートします。

 ここは、ユニバーサルデザインの考えを取り入れ、障害の有無に関わらず子どもたちが一緒に遊ぶための工夫が盛り込まれた場所です。また、あらゆる子どもが自然に触れたり、それらを活用したりして遊べるユニークなコーナーもあります。

  たとえば「森の迷路」。

写真:生垣の間にあるゲート。その奥に小道が延びている

 こちらはその入口です。 岩を模したゲートには、小さな子どもや車いすはそのままくぐれる(大人はかがんで下さい!)穴が開いています。その先には、子どもの背丈ほどの草木が左右に植えられた小道が延びており、子どもにとってワクワクする通り道です。

写真:生垣やベンチ、黄色い花の植えられた花壇のある一画

 このコーナーの中央は少し開けていて、そこには木製のベンチが置かれ、鮮やかな黄色いパンジーが植えられた花壇がありました。

 花壇は地面にあるのではなく、四角い木の枠で囲われ、地面から70センチほど高い位置に作られています。これは「持ち上げられた花壇」という意味で「レイズドベッド」とも呼ばれます。
 花をじっくり観察したり、その香りや葉っぱの手触りを確かめたりするには、地面にしゃがみこむことができない車いす利用者や、物にしっかり近寄って見る必要がある弱視の人はもちろん、多くの人にとって近づきやすい花壇です。

写真:螺旋階段の付いたデッキ。階段の一段目はタタミ半畳ほどの広さの四角い段で、赤いつかまりバーが1つ付いている

 「森の迷路」の隣には、小高いデッキとそこに上がるための螺旋階段の付いた遊具がありました。階段の一番下の段には四角い台があり、赤いつかまりバーが付いていますね。ここは車いすを降り、階段に乗り移るためのプラットフォームです。

 階段を登った上のデッキには何があるのでしょうか。反対側に回ってみましょう。

写真:2階デッキの鉄製の格子で囲われた壁面からパイプが延びている

 デッキ上の壁面からは、曲がりくねった金属製の白いパイプが延びており、その先は地面に置かれた木の桶へとつながっています。またデッキの壁面にはもう一つ、四角い穴が開いていて、そこから1本のロープが垂れ下がっています。ロープの先には、布製のバケツ???

写真:遊具の説明をする看板。後ろにデッキの遊具

 「いったい、どうやって遊ぶのかな?」。そんな人のために、遊具の説明や注意事項が書かれた看板が近くに立っていました。
 (しかし面白いことに、遊具のそばにただ立っていれば、かなりの確率で子どもたちが駆け寄ってきて、お手本を示そうと遊び始めてくれます!)

 ここは「どんぐりころころ」と名付けられた遊び場です。
 まず遊具の下にいる子どもが、拾ってきたどんぐりなどを布のバケツに入れます。デッキの上にいる子どもはロープを手繰ってそのバケツを引き上げます。木の実を受け取った上の子が、それを白いパイプの入口に投入。

 「カラン、コロン、カン、カラ、コン、コン、カン・・・ぽとっ」

 曲がりくねったパイプの中を、軽やかな音を立てながら落ちてきた木の実は、下にいる子どもが見守る木の桶の中に落ちました。
 「出たっ。1、2、3、4・・どんぐり5個!」
 「今度は○○ちゃんが上ね! もっとどんぐりないか探してみる!」

 とはいえ、遊び場の周りでいつも木の実が見つかるとは限りません。
 別の日、ある女の子が集めた小石をおばあちゃんにバケツに入れてもらい、慎重にデッキの上に引き上げていました。

 「おばあちゃん、いくよ!見てて!」
 「キン、コン、キン、カラ、キーン、カン、キン・・・ぽとっ」

 小石は透き通った高音を響かせながら桶の中に到着しました。

 視覚に障害がある子どももない子どもも、パイプの中を転がる見えない木の実や小石の音を頼りに「来るぞ、来るぞ!」と待ち構える期待感や、複数の人が協力して遊ぶ楽しさが味わえる仕掛けなんですね。
 もしこれが、スロープ付きのデッキの上にあったなら、車いすを降りて自力で階段を上がることができない子どもも含め、より多くの子どもが役割を交代しながら楽しさを共有できそうです。

 スロープと言えば!
 この「わんぱくゆうぐひろば」には、特徴的な大型複合遊具があります。 高さはそれほどありませんが、とっても広いこの遊具。しかも設置面積の大半を、スロープとデッキが占めているのです。下の写真をご覧下さい。

 幅は78センチと少し狭めながら、傾斜は極めて緩やかで、手すりの付いた短いスロープが、あちらにも、こちらにも、場所によっては2本並んで、全部で20本以上、張り巡らされています。

 車いすの進入できる入口は4箇所あり(左の写真)、豊富なスロープとデッキのおかげで、車いすのまま遊具上のどこへでも行くことができます。
 ただ、複合遊具の一部ではすべり台などが延びているのですが、その他のデッキ上の遊び要素はそれほど多くありません(右の写真)。    

 じつにたくさんのスロープをもつこの遊具。 子どもたちはどう遊んでいるのでしょうか。しばらく観察してみました。

 2歳くらいの女の子が、まずはこっちの道、今度はあっち、とスロープを行ったり来たりして遊んでいました。入り組んだ路地を探検するような感覚で、たくさんのルートの中から自分の道を選びながら進むことを楽しんでいるようです。  

 一方、他の子どもたちは、複合遊具の片側、滑り台などがまとめて設置されたデッキの周辺に集まって遊んでいます。滑り台のそばには、はしごや登り遊具、階段などの近道があるので、わざわざ遠回りをしてスロープを利用しなくても、この周辺だけで遊びが完結するためです。
 彼らにとって遊具の半分以上を占めるスロープのエリアは、「ルートはたくさんあるけれど、あまり遊べない場所」なのかもしれません。

 たとえばスロープエリアにも楽しいスポットや仕掛けがあったとしたらどうでしょう。車いすかどうかに関わらず子どもたちが遊具全体を広く回遊するようになり、子どもどうしの関わりも増え、さらに有意義な遊び場になるような気がします。  

 ところでこの複合遊具で、めずらしい工夫を見つけました。

写真:2本並んだスロープの間に大きな常緑樹
写真:六角形の回廊のデッキで囲まれた中央に生えている背の高い落葉樹

 2本並んだスロープの間や、回廊のようなデッキに囲まれた中に大きな木が立っています。広い遊具はこれらの木々を取り込んだ形で設計されていたのです!

 スロープを通り、デッキで遊ぶ子どもたちを見守るように立っている木。
 風に吹かれた葉が音を立て、床には木漏れ日が揺れ、梢には鳥がやってきます。
 人工的な大型複合遊具と、自然の息吹を感じさせる木が共存することで、遊び空間の質が高まっている印象を受けました。

 また、遊び場にあるたくさんのイチョウの木が、夏には涼しい木陰を作り(左の写真)、秋には落ち葉で地面を金色に染めます(右の写真)。

写真:複合遊具のデッキで遊ぶ親子連れ

 秋のある日、複合遊具のデッキに座り込んでイチョウの葉っぱを集め、お互いの頭の上からかけ合って遊ぶお父さんと子どもたちの姿がありました。地面と違ってデッキの上に落ちた葉には土や砂がついていないので、こうして遊ぶにはピッタリ!  デッキ上に自然の遊び道具が出現、といったところです。 (ちなみに、スロープなどの上に落ち葉が積もったままだと、滑りやすくなってしまいます。ここの落ち葉は、毎日閉園後、公園の方が清掃をなさっているそうです。)

 こちらのブランコエリアには、多様なブランコが並んでいました。幼児用のバケット型ブランコ(左の写真)や、背もたれの付いたシート型ブランコ(右の写真)もあります。
 ベビーカーを押してやってきたお母さんたちが、赤ちゃんやよちよち歩きの子どもをこれらのブランコに乗せてみたところ、子どもたちは大喜び。 「まだ乗れなくて怖がると思ってたのに!」 お母さんもびっくりするほどの大興奮でした。  

 ユニバーサルデザインの考えを取り入れて作られた「わんぱくゆうぐひろば」。
 多様な子どもたちが利用できる遊び場は、たくさんの人に利益を提供していました。(見学に訪れた時には出会いませんでしたが、障害をもつ子どもたちの利用も、もちろんあるそうです。)  

 また、子どもが自然に触れ、観察したり、その変化を感じたり、自分たちで遊びを生み出したりできる環境が、遊び場の豊かさにつながることにも気付かされました。

 しかしこうした先駆的な取組みには、成功例とともに課題も付きものです。
 中には、当初予定していた遊びを提供し続けることが難しかったケース(例:「落ち葉のプール」囲いに入れた落ち葉が風ですぐに吹き飛ばされるため)や、乱暴な利用をされたことで壊れ、デザインの変更が必要になった遊具(例:「幼児用ブランコ」大人が無謀な乗り方をしたため)もあるそうです。  

 様々な工夫を実践したからこそ確かめられたたくさんの成果、そして課題と改善策。  ここは、だれもが楽しめる公園を考えるにあたって、多くの助言を与えてくれる貴重な場所です。
 国営昭和記念公園から、「わんぱくゆうぐひろば」をご紹介しました。