UD公園のヒント<海外編>
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「UD公園のヒント・海外編No.13」
公園訪問inロンドン・イギリス
~ダイアナ・メモリアル・プレイグラウンド~

 大都市ロンドンの中心部で、ハイドパークと隣接して一つの広大な長方形の緑地を形成している王立公園ケンジントンガーデンズにやって来ました。只今、横に長ーいこの公園を縦にまっすぐ貫く園路の入口に立っているのですが、反対側の出口ははるか彼方で見えません!

写真:並木の間をまっすぐに延びる広い園路。手前に公園の案内板  
 園路の左手には大きな池や林、並木道、芝地などが延々と広がり、右手奥には、ダイアナ妃の住まいとなっていたケンジントン宮殿があります。そして2000年にオープンし、2009年の春に改装されたばかりの子どもの遊び場「Diana, Princess of Wales’ Memorial Playground」があるのは、このすぐ右手! 急いでそこへ向かいます。

写真:八角形のガゼボ(あずまや)。屋根の上には時計   写真:遊び場の案内板。ダイアナ妃とピーターパンの像の写真が載っている
 時刻は午前9時20分過ぎ。遊び場の門は、まだ閉ざされたままです。
 門の外にある広場にはピクニックテーブルが置かれ、数組の親子連れが早くも10時の開園を待っていました。この遊び場はサッカーコートほどの広さながら、毎年75万人が訪れるという人気の場所なのです。

写真:遊び場の見取り図
 ちなみに入園できるのは、12歳までの子どもと付き添いの大人のみ。若者や大人だけの入園は禁止です。
 しかし園内の見学を希望する人たちのために、毎朝9時30分から10時までの30分だけ、準備中の遊び場への入園が認められており、写真も遠慮なく撮ることができます。私たちはそれを目当てにやってきたという訳です。他にも東欧の学生さんらしきグループが、同じく大人向けの開園を待っているご様子。  

 ではこの間に、遊び場についてちょっと予習を・・・。  
 もともとここには、「ピーターパン」の作者J.M. Barrieによってつくられた小さな遊び場があったそうです。(ケンジントンガーデンズは、ピーターパン誕生の地ともいえる場所で、公園内には今もピーターパンの像が立っています。) その後、1997年にダイアナ妃が事故で亡くなり、子ども好きだった彼女を称え、記念しようと、遊び場は大きく生まれ変わることになりました。  

 生前、病気の子どもや障害のある子どもたちを支援していたダイアナ妃にならい、遊び場には多様な子どものための配慮が加えられたそうです。もちろんピーターパンの物語の世界観も、遊び場のデザインに反映されているのだとか。  

 おっと、広場の時計が9時30分を指しました。  
 係員さんに門を開錠してもらって、いよいよ30分間限定の公園レポート開始です!

写真:ブランコエリア。板ブランコと幼児用ブランコの2種類   写真:高床式住居のような木造プレイハウス。2階へはネットや階段で出入りする
 まず見つけたのは、まるで森に囲まれているようなブランコエリア。地面はウッドチップですね。
 遊び場は全体を通して、アスファルトやプラスチックといった人工的な素材をなるべく使わず、自然の中で子どもたちが想像力を膨らませ、冒険したくなるよう「ナチュラルプレイ」をコンセプトにつくられたそうです。

 右の写真は、いろいろなプレイハウスが並ぶエリアです。手前のプレイハウスの場合、2階に上がることが難しい車いすの子どもも1階は多少利用できるようになっていて、みんなの遊びになんとか加わることができそうです。

写真:水遊び場。所々に岩が置かれた小さな砂山のようだが、実際は固い地面
 こちらは、広い水遊び場。
 なだらかな丘の上は平らになっており、中央に大きな岩が置かれています。今は準備中ですが開園すれば、ここから出た水が斜面に積まれた岩の間やくぼみを通り、せせらぎとなって周囲に流れ落ちていきます。
 「自然」な雰囲気を壊さないよう、丘には階段もスロープもありませんが、だれかに押してもらえば車いすの子どもも平らな頂上に上がれそう。水遊びの楽しさは子どもたちにとって格別ですからね。

写真:ステンレスの支柱に2か所ずつ、ボタンと蛇口がついている   写真:地面に半分埋もれた状態の、等身大のワニの姿や木の宝箱
 丘のふもとには、柱の円いボタンを押すと水が出る仕掛けの他、石を並べて形づくられた大きなワニ、波に運ばれて岸に漂着したかのような宝箱(鍵がかかっています。中身は水栓設備?)もあり、子どもたちのイマジネーションをかき立てます。
写真:大きなざるをぶら下げたような形のブランコ。地面はゴムチップ舗装   写真:人が乗る部分。円い枠の内側はロープで編んだネット
 水遊び場の隣には、海に見立てた大きな砂場が広がり、その奥にはリアルな帆船が! これは遊び場で一番人気の海賊船で、子どもたちは操舵室に入って美しい木製の舵をとったり、甲板下の船倉(砂場)に潜り込んだり、マストの上まで登ったりして、長時間飽きることなく遊ぶそうです。周囲が砂ですし、残念ながら「アクセシブル」とは言えませんが、「もしここで、いろんな子どもたちがいっしょに遊べたら素敵だろうな・・・」と夢が広がる場所でした。

写真:緑の植栽の間をカーブして延びる園路       写真:園路の脇に現れた桟橋のようなボードウォーク

 砂場の横から続くなだらかな園路を上ると、左手にボードウォークの入口を発見!

 写真:くねくねと延びるボードウォーク。手前の地面には、3つのばねで円盤を支える構造のスプリング遊具が並ぶ  写真:大木を取り囲むような形をしたボードウォーク先端のデッキ。ステンレスの滑り台や梯子がある

 ボードウォークは、フクロウなどの彫刻が施された木の幹の脇を曲がり、葉の生い茂る大木をいくつも取り囲みながら、桟橋のように長く延びています。途中には、はしごや吊り橋、滑り台などの遊具があり、池に見立てた下の広場には、ハスの葉のような形のスプリング遊具やカエルのオブジェが設置されていました。
 このように平らで大きなスプリング遊具なら、だれかといっしょに乗ったり、座った姿勢で揺れを楽しんだりもできます。写真の他に、大人の人といっしょに滑れる幅の広い滑り台もありましたよ。

写真:高くて傾斜の急な滑り台のスタート地点   写真:大きな浅いざるを吊るしたような形のブランコ。背後の木々の奥に先ほどの滑り台
 園路を挟んでボードウォークの反対側は、ちょっと急な滑り台のスタート地点になっています。車いすからもアクセスしやすいこの滑り台。子どもが滑った後に残った車いすは、すぐそばの階段ルートを使って、滑り台の下までショートカットで運ぶことができます。

 届けてもらった車いすに乗りこんだ子どもが、再び園路のスロープルートへ戻る途中に見つけるのが、鳥の巣のような形をしたブランコ。こちらも自由な姿勢で、だれかといっしょに乗ることができる遊具です。「もう一回滑り台に行く前に、ちょっとブランコ遊び!」というのもいいですね。

写真:植栽を利用してつくられた小さなトンネル。大人は腰をかがめて通らなければならない     写真:様々な石を敷き詰めてつくられた小道
 さあ、園路を先へと進みましょう。 園内はどこも、入念な手入れが行き届いています。また園路の両サイドには、多種多様な植物が絶妙に配置されており、小さな緑のトンネルや、まるで「けもの道」のような細い裏道にいたるまで、とても魅力的。
 一本の小道が、小石、大きな石と表情を変えながら延びていく様も楽しく、子どもたちを次々と遊びや探検の世界へ誘います。

写真:小さなスペースの角に大きな椅子。背もたれに「once upon a time…」と刻まれている。まわりに並ぶ小さな丸椅子と、中央に立つ黒い四角柱   写真:四角柱の説明板。奥に水の入った手水鉢
 遊び場の一番奥にあったのは、「お話コーナー」的なエリアです。
 「むかーしむかし、あるところに・・・」 大きな椅子に座った子どもが語る自作のおとぎ話を、周りの小さな椅子に座った子どもたちが身を乗り出して聞いたり、時には遊びの作戦会議が開かれたりするかもしれません。  

 ところで、エリアの中央に立っている黒い四角柱は何でしょう?
 外見はただ一本の石柱に、上から十字の切れ目が深く入れられているだけ。しかし説明板によると、庭の奥に置かれた手水鉢の水で石柱の上の面を濡らして掌で擦ると、摩擦と振動で音が鳴り始め、やがて大きく長く響かせることもできるのだとか。ちょうど、濡れた指先でグラスの縁を鳴らす「グラスハープ」と同じ原理ですね。それにしても、こんなにがっちりとした石が鳴るとは驚きです。  

 さっそくやってみましょう。水で濡らして・・・表面を擦ると・・・音が、・・・な、・・・鳴らないっ!
 説明文には、「少し辛抱強くやれば」とか、「さらに練習を積むと」と書いてありますが、こちらの心の焦りを映してか、石は一向に音を立てそうにありません。許された見学時間は残り十数分! やむなくギブアップして先を急ぎます。  
 とにかくこれをうまく鳴らせた子どもは、大きな達成感が得られること請け合いです。
写真:大きくて浅いボウルのような回転遊具。中央の底に付いた軸で地面に固定されており、斜めに傾いた状態で回る    写真:地面から少し盛り上がったような形の金属製の円盤。中央の円く平らな部分が回転する
写真:地面に縦横3枚ずつ並んだ金属製の四角いパネル。中央のパネルを足で踏んでいるところ 写真:ユニークな楽器コーナー。亀の形をした箱太鼓や、吊り下げられた木の筒をスティックで叩いて鳴らす楽器、長さの異なる金属の筒を、ピアノの鍵盤を大きくしたような各バーを押すことで鳴らす楽器がある
 「お話コーナー」の先には、緑の木々で囲われたこじんまりとしたコーナーがいくつも続いていました。これら一連のエリアは、子どもたちがそれぞれの場所で、回転したり、音を鳴らしたり、いろいろな感覚を使って遊べるように設けられたものです。例えば左下の写真にある9枚の金色のパネルは、上に乗ると地面の下から「キーン」「コーン」と、パネルごとに高さの違う澄んだ金属音が響きます。  いずれも「芸術作品」のような佇まいの「遊具」。どうやって遊ぶのかを自分たちで発見する楽しさもあるようです。

 なお、各遊具の周りが木々で囲まれ独立した空間になっているのは、他のコーナーから聞こえる音や視界に入る情報を、ある程度さえぎる意味があると思われます。この方が、子どもたちがそれぞれ感覚を研ぎ澄まし、集中して楽しめそうですね。

 以前、発達障害のある子どものお母さんたちから、こんな意見を伺いました。 「あまり巨大で複雑な遊具だと、どこで何をすればよいのか混乱してしまって遊べない場合がある。『ここは○○をする所』とはっきり分かれていると遊びやすいのだけど」  
 集団でのごっこ遊びなどと違って、個人でいろいろな感覚を体験し楽しむ遊具には、こうした小さなコーナーが連続するレイアウトが有効かもしれません。

    写真:園路の脇に立つ木の柱   写真:芝生の広場の奥に、木の柵で周囲を囲んだアメリカインディアンの村
 感覚遊びエリアを抜けて園路を進むうちに、何やら不思議な気持ちになって立ち止まりました。最初は何が気になったのか分からなかったのですが、「・・・あ!」。どこからかカモメの鳴き声と打ち寄せる波の音が聞こえているではありませんか。
 驚いて周囲を見回すと・・・ありました。道端に並ぶ木の柱(擬木)には、ソーラーパネルとともにセンサーとスピーカーが内蔵されています。園路を人が通ると、さりげなく海の環境音がフェイドインする仕掛けになっていたのです。
 思いがけず、ちょっとした海辺の散歩気分を味わうことができました。

 そして最後に到着したのが、アメリカインディアンの村。

写真:10本ほどの木の柱を円錐形に組んで、外側に布を張ったテント     写真:ワシや亀など動物の彫刻が施されたトーテムポール
 柵で囲われた村の中には、おなじみのテント式住居やトーテムポールが立ち並んでいます。
 そう言えばこのテント、大人も子どもも車いすユーザーも、みんなが入れてちょっとワクワクする空間ですよね。それにトーテムポールは、見ても触っても登っても(!?)楽しめる造形物。ユニバーサルデザインの種は、こうした伝統的な生活様式や文化の中にも隠れているのかもしれません。

 さあ、これでなんとか時間内に遊び場を一周することができたようです。
 最後に見つけた、小さな工夫を二つご紹介!

写真:子ども向けの木製ベンチと椅子
 これは芝生の広場にあった、ヒトデの形をしたテーブルと貝がらの形をした椅子。 星型のヒトデの周りには5つの三角スペースがありますが、このうち椅子が置かれているのは4か所だけです。あとの1か所は、車いすやベビーカーのユーザーがみんなといっしょにテーブルを囲めるよう、意図的に設けられたゆとりのスペースでしょう。

写真:王立公園が設置している募金箱
 もう一つは、正面から見るとサボテンか木のような形をしたオブジェ?
 これは、様々な太さの金属パイプを輪切りにし、側面に並べて形づくられた募金箱です。4本の枝先部分にある赤い投入口からコインを入れられるようになっていて、集まったお金は遊び場の維持管理に使われます。それぞれ自分に合った高さの枝からお金を入れられるという訳ですね。
 30分という短い時間でしたが、素敵な遊び場を自由に探検させてもらえたことに感謝しつつ、コインを入れると・・・キン、カラ、キン、コン、カン、キン!  中に入ったコインは凸凹に組まれたパイプのあちこちに当たり、軽やかな音を立てて落ちていきました。「楽しい!もう一回。今度は別の所から!」と、結局3回投入――。なるほど。便利で、楽しみながら寄付ができて、ついつい額もはずむ、よくできた仕掛けに脱帽です。

 「見学の方たちは出てくださーい!」 係員さんが大きな声で呼びかけました。10時ちょうど。広場で列をつくってじりじりしながら開園を待っていた子どもたちと、ついに交代です。門をくぐったみんなは、弾けるような笑顔で思い思いの方向へ駆け出して行きました。楽しんでね!

写真:芝生広場に並ぶ3頭の木彫りの羊。丸々とした形でほぼ等身大    写真:美しい花々が植えられた庭。あまり人工的で整然とした雰囲気にならないよう草木や岩も多用されている
 ダイアナ メモリアル プレイグラウンドは、カラフルで近代的な公園遊具を置く替わりに、シンプルで美しく、自然に近い遊び環境を整えることに心を砕いていました。「子ども専用の特殊な仮想空間」よりも、「豊かな自然とともにある本物の世界」に近づけることで、子どもたちの奥に眠る冒険心や想像力を引き出そうとしている印象を受けました。  

 またユニバーサルデザインの観点から見ると、すべてがアクセシブルとは言えないものの、あらゆる子どもに多彩で魅力的な遊びをさりげなく提供するためのヒントを与えてくれる場所でした。  

 今回は残念ながら、子どもたちが実際に遊ぶ様子を見ることはできませんでしたが、この遊び場が多くの人を惹きつけてやまないというのは、どうやら確かなようです。  

 ほら。あちらからまた、地下鉄で到着したばかりらしいベビーカーの親子連れがおおぜい、楽しげに言葉を交わしながら遊び場へと向かっていきます――。
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