こぼれ話
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ブランコと車いすマーク

 2005年、ニューヨークのUD公園で起こったある出来事が、地元の新聞に載りました。


 その遊び場に1つだけある背もたれ&フットレスト付きのブランコに、障がいのある3歳の息子を乗せて揺らしていた母親のところへ、二人の女の子がかけ寄ってきて「そのブランコずっと独り占めしてる!」と抗議。母親は「これは障害のある子のセラピー用なの」と譲らなかったため、女の子のベビーシッターと母親との間で口論となり、公園管理員まで呼ばれる騒ぎに……。管理員は「ここがそんな特別な(障害児のための)公園だなんて聞いたことがない。他の公園と一緒だよ」として、母親をブランコエリアから立ち去らせました。その後、母親は公園管理局に対し、『このブランコは障害児用です』と書いた看板を掲げるよう要求している、という内容でした。別ウィンドウで開きますThe New York Timesの記事本文


 女の子たちがそのブランコに乗りたがったのも無理はありません。シートに身を委ねて空を眺めながら、あるいは友達と二人で乗ることもできるこのブランコには、一般的なベルトシートのブランコでは味わえない楽しさがあるのです。

 母親が「これは障害がある子どものためのもの」と主張したのも無理はありません。一般的なシートには乗れない子どもにとってブランコを楽しめる唯一の手段ですし、揺れによる感覚刺激はリハビリにも取り入れられる重要な要素です。

 管理員(対応したのは臨時職員だったそう)が「他の公園と変わらない」と思ったのも無理はありません。UD公園は『障害児のための特殊な公園』という印象を与えないよう注意深くつくられているためです。つまり公園側としては、あからさまな看板を掲げることで、障害を持つ子どもの特別視につながる状況を生むのは本意ではないはずです。


 実際にどんな対策が取られたのか、数年後にその遊び場を訪ねてみました。


写真:背もたれとフットレスト付きのブランコ。頭上の梁に小さな看板がぶら下がる。  写真:梁と同じ深緑色の看板に、白い文字で書かれた文章。

 そこにあったのは、なるべく目立たないよう色や表示位置が配慮された小さな看板。

 大人向けの細かい文字で、「アクセシブル・ブランコ これは障害がある子どものためにデザインされたブランコです。ブランコをご利用の際は、こうした子どもたちの優先利用に一層のご配慮をいただきますようお願いいたします。ご協力に感謝します」と書かれ、ささやかな車いすマークが記されていました。


 当時ニューヨーク市内に数カ所しかなかったというUD公園は、その後、数を増やし、このブランコも現在(2014年)では100カ所以上で導入されています。障害のある子どもに配慮した公園が珍しくなくなった今、こうした看板などなくてもお互いに譲り合う文化が根付きつつあることでしょう。


 日本のUD公園では、複合遊具のスロープ入口や移乗用プレイデッキなどへこれ見よがしに車いすマークを掲示する例があります。

 そのマークがなければ利用法がわからなかったり、重大な危険が生じたりするとは思えません。むしろ、ただ遊び仲間として出会い、対等に楽しみたい子どもたちに、あえて「障害者」と「健常者」の線引きを意識させることにつながります。


 ニューヨークの小さな公園での出来事から約10年――。

現在、海外で進むインクルーシブな遊び場づくりにおいて、駐車場とトイレの標識以外で車いすマークを使用することは、まずありません。  

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