こぼれ話
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壁が消える場所 (前編)

 カリフォルニアのNPO「シェーンズインスピレーション」は、誰もが利用できるユニバーサルな遊び場づくりを支援するだけでなく、その遊び場を利用した様々な企画を通して多様な子どもたちの交流や相互理解の促進にも取り組んでいる団体です。

 彼らのユニークな活動のひとつに、おもに小学校の児童等を対象とした「学校教育プログラム」があります。これは障害のある子どもとない子どもがペアになってシェーンズの公園で遊ぶ体験を含めた3日間のプログラムです。
 いったいどんな内容なのでしょう? 来日中だった同NPOのシニアディレクター、ブラッドさんにお話を伺いました。



 プログラムの初日は、NPOのスタッフが一般の学校の教室を訪れて授業を行うそうです。
 まず紙を配り、「障害のある人に対してどう思う?」と問いかけるのですが、これには多くの子どもたちが「かわいそう」「気の毒だ」といった言葉を書くといいます。

 ほとんどの子どもが、障害のある人の存在は知っていても直接かかわったことがありません。まるで透明な厚い壁の向こう側にいるかのように感じる相手に抱く感情は、ぼんやりとしていて一方的です。
 この質問の後、社会でいろいろな形で活躍する障害者のビデオを見たりグループで話し合ったりするうちに、子どもたちの意識は障害をもつ人の本当の姿に少し近づきます。


 2日目はメインイベントの公園遊び! 子どもたちはシェーンズの公園で他の学校からやってきた障害のある子どもたちと出会い、2~3人ずつペアを組んで遊びます。

 

 最初に先生がペアの相手について、「彼女は車いすに乗っているよ」「彼は言葉はしゃべらないけど、きみの言うことは理解してるよ」といったごく簡単な紹介をしますが、あとはまったく子どもたちだけで遊ぶのだそうです。大人はそれを遠くから見守ります。


――子どもたちは初対面ですよね。いきなり子どもだけで遊んで大丈夫ですか?
「もちろん彼らが『どうしよう?』と悩む事態は起こります。でもたいてい、お互いに努力してうまい解決法を見つけ出しちゃいますよ。大人の力を借りずにね(笑)。だからよほどのことがない限り、大人は手を出さないようにしているんです」


 さりげなくいろいろな工夫が盛りこまれた遊び場・・・。ここでなら自分の力を発揮していっしょに遊べる子どもたちは、ほどなくお互いを理解し、もっと楽しむための方法までどんどん編み出していくようです。
 こうしてシェーンズの公園は、自由に遊ぶ子どもたちの笑顔と歓声でにぎわいます。


 最終日は、スタッフが再度教室を訪れての授業です。子どもたちのいきいきとした感想から、その心に起こった大きな変化を実感できる嬉しい日だといいます。


「○○ちゃんも私と同じで、公園で遊ぶのが大好きだったの。すごく楽しかった!」
「○○さんは思ってることを表情で伝えるんだ。言葉じゃなくてもちゃんと伝わるんだよ」
「○○くんもぼくもいっしょだってことに気づいた。やり方が違うだけさ」


そこに、障害のある人を「かわいそう」と書いた子どもたちの姿はもうありません。

 だれもがいっしょに楽しく遊べる公園は、
 子どもたちを隔てていた厚い壁を取り壊してくれる場所・・・
 いえ、本当は自分たちの間に壁など実在しなかったのだということを
 さらりと気づかせてくれる場所なのかもしれません。

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