コラム
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「コラムNo.12:ある秋の一日」
岡山県健康の森学園支援学校
林 卓志

  ある秋の日の週末、突然電話が「リーン!」(古いですね。)出てみると20年前の教え子の声。「明日、お祭りがあるから来て!」弾んだ声が聞こえてきました。
 詳しいことがよくわからなかったので、折り返しお母さんに電話をすると、「明日地元でイベントがあり、所属している施設もお店を出すとのこと。」それならばと次の日、車を飛ばしてイベント会場へ向かいました。

 空は青くぽかぽかと暖かい日で、気分もうきうきといった本当に気持ちのいい日でした。会場に着くと開始時刻前だというのにたくさんの人でにぎわっていました。広い空き地にたくさんのお店が並んでいて、地元の特産物やフリマ、おいしそうな食べ物でいっぱいです。色々なお店に心惹かれながらも、まずは教え子のお母さんがいるお店へと向かいました。お母さんのお話では、施設はお店を出しているけれど、今日は店番はなしで遊びに来るだけということで、本人はまだ到着していませんでした。

 しばらくお母さんと立ち話をした後、会場内をぶらぶらしていると、携帯電話が「リーン!」(やっぱり古い?)「来ました!」の声。さっそく会いに行きました。久しぶりに会いましたが、元気そうに笑っている顔は昔と変わらず、それどころかパワーアップ?しているように感じました。今はグループホームで生活していて、そこから施設に通って仕事をしているとのことで、ホームの友達と世話人の方と一緒に来ていました。しばらく立ち話をした後、またあとでということでお互い会場をまわることになりました。
 大きくたくましくなったなぁと、昔のことを思い出し感心しつつ歩いていると、友達と3人でいるところを見つけました。みんなで赤い羽根の募金をしているところでした。自分の財布からお金を出し、募金箱に入れ、赤い羽根をもらう。どこでも見かける当たり前のシーンだったのですが、なぜか心打たれるものがありました。
 そして、風船をもらったときの3人の笑顔!本当に素直ではじけるようなすばらしい笑顔でした。あまりにうれしくてはしゃぎすぎ、風船がひとつ手を離れて飛んでいってしまったのですが、それをみんなで見送る表情も本当に心が和む素敵なものでした。雲ひとつない青い空と、あたり一面に咲き誇っている色とりどりのコスモス、空にふわふわと登っていく風船と、それを見送るみんなの表情。すべてがとてもマッチしていて、まるで一枚の名画を見るようでした。新しい風船をもらって、またまたおおはしゃぎしている彼女たちをコスモスをバックにパチリ!帰りには彼女のおこづかいで、自分が作っているクッキーを買ってくれお土産にもらいました。

 車に帰ってクッキーを一枚かじると、本当に素朴な何かほっとする味がしました。ほんの数時間のことでしたが、とてもたくさんのお土産をもらった気がしました。教師としては、お金が使えるようになったなぁとか、友達と仲良く過ごせるようになったなぁとか、募金をすることができるようになってえらいなぁとか思うことはたくさんあったような気はしましたが、そんなことよりも、もっと別の何かを強く感じた数時間でした。
 いろんな人に囲まれて、自分の育ったところで暮らし、地域の行事に参加する。当たり前の普通の光景を見ることができたことに、そして何よりもこんな幸せな気分を与えてくれた彼女たちの笑顔と、空とコスモスに感謝しながら帰途に着いた秋の一日でした。

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