コラム
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「コラムNo.03:ユニバーサルデザインの公園の価値」
倉敷芸術科学大学芸術学部
柳田宏治

 子どもたちが遊ぶ公園のユニバーサルデザイン。初めてその価値を実感したのは十数年前のことでした。’95年当時私はアメリカで、生まれて間もないユニバーサルデザインという考え方について調査をしていました。

 ユニバーサルデザインの考え方のベースには、1990年に施行されたADA(障害を持つアメリカ人法)があります。ADAでは雇用、交通、建築、通信の4つの分野で障害を理由とした差別を禁止しており、公園もその中に含まれます。障害を理由に差別されない公園とはどんなものでしょうか。勤務先があったニューヨークに、このADAの規定に基づいた新しい公園ができているという話を聞き、カメラを持って出かけました。マンハッタンの南東、アパートや病院に囲まれた環境の中に’93年にできたその公園Asser Levy Playgroundは、中央に中規模の複合遊具があり、その周りにブランコや砂場、ベンチが置かれた見た目には「普通の」公園でした。

 取り敢えず遊具の写真を撮ろうとカメラを構えたところ、姉弟と思われる2人の子どもが駆けて来ました。女の子は一直線に梯子に向かったのですが、後から来た小さな弟の方は、梯子の前でくるっと向きを変えてスロープに向かったのです。きっと梯子を登るのが怖かったのでしょう。それから2人はそれぞれの方法で何度も遊具に登っては滑り台を下り、楽しそうに遊んでいました。

 この遊具のどこがユニバーサルデザインなのでしょうか。滑り台で遊ぶには、まずはデッキの上に登らなくてはなりません。子どもの身体能力はさまざまなので、梯子だけが唯一の手段だとしたら小さな子どもは遊べません。でも、この遊具のように梯子に加えてスロープがあれば遊べる子どもの幅はずっと広がります。ベビーカーを押すお母さんや、孫と一緒に来た足腰が弱いお年寄りにも選ばれるルートになるでしょう。スロープは、車椅子を使う子どもたちだけのものではないのです。そして、この遊具には滑り台のデッキに上がる方法がもう一つあります。写真の右端にある高さの低いデッキ(小さな子どもが遊んでいるところ)は、車椅子から直接乗り移ることができる高さになっています。ここからもう1、2段上がれば滑り台のデッキです。

 たとえ滑り台から下りなくてもデッキの上から周りを眺めることは誰もが体験したいことです。遊具の一番上まで上がる方法がいくつも用意され、利用者はそれぞれの能力(体力や状況など)に合わせて選択し、同じように滑り台を下りたり景色を眺めたりといった楽しみを得ることができる。スロープというハードルの低い選択肢があるからといって、子どものチャレンジの気持ちを妨げるものではありません。写真の男の子も、いつかお姉さんの後を追って梯子に挑む日が来るでしょう。

 多様な利用者の能力に適応できるデザインによって、誰もが同じだけ楽しめる公園。ユニバーサルデザインの公園の価値を実感できた瞬間でした。

写真:公園の複合遊具。滑り台の隣には梯子があり、その向こうには折り返しのスロープがある。梯子を登り始めた女の子と、後ろから駆けて来る小さな男の子

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